しろうおが還る川 松本川(3)

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■早春の風物詩しろうお漁

 2月も半ばを過ぎて松本川の水が温みだすと、川にカモメやウミネコなどの海鳥が集まってくる。しろうおの遡上が始まったようだ。

早春の松本川

松本川の川端には、大きな四つ手網を張ったしろうお漁の小船が並ぶ。川沿いの旅館や料亭の前には、「しろうお料理」の文字が染められた幟が春風になびいている。萩のしろうお漁は、旧藩時代から続くもので、もともとは江戸時代の中期頃に椿東分(つばきひがしぶん)と呼ばれた阿武川下流域や松本川沿川の農民らによって始められたといわれている。

しろうお漁が解禁されるのは2月中旬だが、4月の声をきくとしろうおの遡上や産卵期が終わってしまう。だから、漁期はわずか1ケ月ほどしかない。現在、松本川や姥倉運河で漁をするのは、萩漁協白魚組合に所属する30人ほどである。
この季節、川をさかのぼるしろうおを対象とした漁は、福岡の室見川など各地の川でもみうけられる。けれども、四つ手網を張った数十隻の小船が、川のあちこちに陣取るしろうお漁の風景は、この川独特のものである。

■四つ手網の上げ下ろし

 漁の方法は、川底近くに四つ手網を沈めて、潮の流れにのって川をのぼってくるしろうおを待ちうける。群れが網の上を通過する頃あいを見計らってロープを手繰り、しろうおを一気にすくい取るのである。目の詰まった網の操作は、水や風の抵抗もあってけっこう重そうだ。多い日には数百回も上げ下ろしするので、年期の入った漁師さんでも体が痛くなる重労働だという。

重い四つ手網を引き上げる

網の大きさは、たたみ6畳から10畳ぐらいもある。しかし、網にかかるしろうおの数はほんの一握りほどで、大漁というには程とおい。しろうおの漁獲量は体積でいう慣わしで、昔は一人一日あたり5~6升、調子のよい日は1斗ちかくもとれそうだ。けれども、最近では1シーズンの合計ですら、1斗いくかいかないかぐらいしかとれない。しろうお漁にも不景気風が吹きつづけているのである。

片手で網を操りながら、ひしゃくで網を叩いてしろうおを集める

首尾よく網に入ったしろうおは、片手で網を引き寄せながら、もう片方の手でひしゃくの底で網を叩き1箇所に寄せられる。そのあと、網の反動を利用してひしゃくの中に集め、舟の上のバケツや船べりにつながれた木製の生け簀に移される。その間、人の手がしろうおに触ることはない。網の張り具合とひしゃくのさばき加減で、魚を痛めないで生け捕りにする巧みの技だ。
そしてふたたび潮の流れ加減をみながら網を投げ入れ、しろうおの通過を気長に待つ。

潮の悪い日は群れが動かないし、風の強いときは網があおられて上げ下げができないため漁は休みとなる。漁のできる日数や時間帯が限られるうえ、その出来不出来はしろうおの通り道に網を置けるどうかによっておおかた決まってしまう。そこで漁のシーズン当初は、毎朝、船溜まりのある川岸で、その日に網を置く場所決めのくじびきが行われる。大漁を手中におさめるには、くじ運がまず必要なのである。漁師のかたに伺うと、川幅のある松本川でも、潮のよく流れるところがおおむね決まっていて、そうした澪筋や橋脚の回りの深く掘れた所がよいそうだ。

シーズンも半ばをすぎると、くじ引きによる場所決めはなくなり、網を置く場所を自由に選ぶことができるようになる。川のなかほどに小さなブイが浮かんでいたので漁師さんに尋ねてみると、あれは自分がいつも網を置くポイントを示す澪標(みおつくし)だと教えてくださった。

【次は】しろうおが還る川 松本川(4)


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