しろうおが還る川 松本川(5)

■姥倉運河の春

 3月も押し迫ったある日曜日、姥倉運河を訪ねた。
川岸には、四つ手網を張ったしろうお漁の船がずらりと並んでいる。運河と鶴江台の丘に挟まれるように漁家の家並みが続き、洗濯物や布団がうららかな日差しをあびている。庭先には梅やコブシの花が咲き、のどかな春の気配が漂っている。

川岸に四つ手網を張った船が並ぶ春の姥倉運河

姥倉運河は、「ほんかわ」と呼ばれる松本川に比べて風の影響を受けにくく、しろうおもたくさんのぼってくるよい漁場だった。しろうおがよく獲れたころ、漁師の間では、ほんかわよりも人気が高かったそうだ。いまでも漁期になると四つ手網を張った漁の船もたくさん並んでいるが、網の上げ下ろしをしている船は数えるほどで、その動きもあまり活発ではない。

春の河畔には梅やコブシが咲いている

姥倉運河の中ほどには、運河の開削によって離れ小島になった鶴江地区と松本川の右岸とをつなぐ平和橋が架かっている。この橋は、橋の真ん中を軸にして橋桁が90度ぐるりと回転する可動橋としてつくられた。姥倉運河と松本川との間を行き来する船の便を考えてのことである。
冬場や春先などは風が強く、海がしけることも多い。そんな日に鶴江台の沖を回って行き来すると、途中で転覆する恐れもあるが、姥倉運河を使えば風の影響をうけることはない。
近年、しろうお漁の衰退とともに、運河と松本川とを行き来する船の数も減った。橋からは回転時に使用する機械設備が撤去されて、橋桁は固定されたままになっている。

■せいがないのぉ~

 「どうですか?」
「せいがないのぉ~」
「潮は悪くないのに、今日はダメですか?」
「いまじゃ、あそびごとじゃ。しろうおだけじゃ、まんまが食べられぬ。」

堤防にもたれかかって近所のおばさんと
世間話に興じる漁師さん

しろうおを市場に出荷したときの買値は、以前は1升あたり1,100円ぐらいだったが、漁獲量の減少とともに今では 1.5倍ぐらいの値で取引されているそうである。そんな高値でも、しろうお漁だけで生計をたてることのできる漁家は少なく、専業者は組合員の1割程度しかいない。兼業の漁家のなかには、勤め先から休暇をとって漁をする人もいるそうだが、ほとんどとれないので、休んだ分だけ損をしてしまうそうだ。

子どもも手伝っているが肝心の魚がとれない

どうもここ数年、不漁の年が続いているようである。何人かの漁師さんに話しを聞くと、運河の河口にある漁港の施設を拡張するために、湾を埋め立てて埠頭をつくったのがしろうおの減少に追い討ちをかけているらしい。しろうおの稚魚が成魚へと育つ湾の環境が変わってしまったのかもしれない。
そんな話を聞かせてくれたある漁師さんは、とうとう漁をあきらめて、昼ごはんを食べに運河のすぐそばにある家に戻っていった。

4月に運河を再訪してみると、川辺にたくさん並んでいた四つ手網はすっかり片付けられていた。春に孵化したしろうおが還ってくるのは10ケ月先。その間、漁師さんは日本海での沿岸漁業などに従事する。いっぽう、しろうおはプランクトンを追って湾内を遊泳しながら成長し、翌年の春先にまたふるさとのこの川に還ってくる。

【戻る】暮らしのある川の風景【INDEX】


Copyright, Shinji TAKAGI, 1999-2017.All Rights Reserved.