猪名川と流域の概要 (2)社会環境

流域の人口と土地利用

猪名川の流域は、大阪・京都・兵庫の2府1県にまたがっています。流域には大阪国際空港をはじめ、阪神都市圏における衛星都市として発展した池田市、豊中市、箕面市、川西市、伊丹市、尼崎市、能勢町、豊能町、猪名川町など11の市と町が位置しています。
少し古い数字ですが、流域に関連する市町の人口は約180万人に達しており、流域人口を算出すると約63万人(1988年・昭和63年)を擁しています。この流域人口は、地方の県、例えば、鳥取県の推計人口約56万人(2019年)を大きく上回っています。

猪名川流域人口の推移図 指数で示した猪名川の流域別関連市町人口の推移(資料:国勢調査)

流域における土地利用は、かつては、五月山西麓に位置する余野川合流点付近を境として、上流域と下流域とで大きく異なっていました。下流域が住宅地・工場、都市近郊農地といった都市的な土地利用が卓越していたのに対して、上流域の土地利用は農地や山林が主体でした。
歴史的には、北摂各地の谷口集落として発展してきた池田のまちを中心に、都鄙関係がきわめて明瞭な流域でした。

その後、阪神大都市圏の中心部に近接している猪名川流域は、戦後の高度経済成長期に大きな変貌を遂げました。大量高速輸送に適した鉄道交通が流域の南北方向に通じていて、大阪市内まで比較的短時間で到達できるという公共交通の便利な地域でもあったからです。高度経済成長に伴って1965(昭和40)年前後から、中~上流域にまで大規模な宅地開発やゴルフ場の造成が進みました。
現在では、中~上流域においてもかつての里山や丘陵地を大規模に開発して造成された住宅団地が数多く分布しています。こうした流域の都市化にともなって流出特性も変化し、それに見合った治水整備が必要になりました。猪名川とその支流にもコンクリート護岸などの人工的な工作物が増え、中流や上流の一部まで都市河川の様相を呈するようなりました。能勢の里山を背景に、のどかな田園風景を流れていた猪名川の風景も大きく変化を遂げています。

小学校の低学年のころ、冬の耐寒訓練を兼ねた校外行事で能勢の山に「兎狩り」にいきました。能勢電に揺られて鼓滝の急カーブを曲がり、猪名川を渡って一の鳥居あたりの里山で兎を追う行事です。「兎狩り」と言っても今の若い人には通じないでしょうし、今の土地利用状況からは信じてもらえないようなむかし話です。

レクリエーション資源や歴史・文化資源

高度経済成長以前に比べると都市化が著しく進んだ猪名川流域ですが、いっぽうで豊かな自然も残されています。池田市の五月山、箕面市の明治の森国定公園、猪名川町の猪名川渓谷県立自然公園、川西市の知明湖周辺などは、都市住民に身近な自然資源として保全が図られるとともに、行楽や自然探訪などのレクリエーション地としてよく利用され、シーズンには賑わいをみせています。
北摂から離れて、工業が基幹産業の地方の小都市に転居して四半世紀になります。大都市圏にありながら、身近に優れた自然環境に恵まれた猪名川流域の良さは、離れてみるとよくわかります。

万葉の時代において、猪名川は流域の猪名野とともに古歌に好んで歌われ、当時の河口には猪名の港が設置されるなど、古くから開け、文化が栄えてきました。
流域には、弥生時代の集落跡である田能遺跡、織姫伝承の地である呉服神社や唐船が淵、源氏発祥の地と伝えられる多田神社など、多くの歴史・文化資源が分布しています。

唐船が淵と五月山織り姫伝承の地である唐船が淵と五月山【1991年撮影】
改修工事と新猪名川大橋が建設される以前の唐船が淵の風景

河川管理における各種計画と事業の実施

多くの人口と資産を擁する猪名川流域においては、安全な生活を支える治水施設や利水施設の整備に加えて、流出抑制などの総合的な流域対策をすすめることによって、治水安全度を高めていくことが重要です。近年の気象変動にともなう頻発する豪雨や降雨の変化、全国各地で多発している洪水や水害をみていると、治水の重要性は年を追うごとに高まっています。
いっぽうで普段の川は、住民に快適な環境を提供する場として重要な役割を果していることから、治水や利水、周辺の自然的・社会的・歴史的環境と調和のとれた良好な河川環境の管理が求められています。

猪名川における河川管理や河川事業のあゆみをざっと振りかえってみます。、
猪名川の河川工事は、昭和15年に内務省によって着手され、現在も国直轄の河川改修事業として継続的に実施されています。計画された事業の完了までには、まだ何十年もの歳月を要するでしょう。また、中流や上流、支流の府県管理区間では、大阪府や兵庫県による河川改修事業などが進められてきました。

このほか、これまでに策定された主な計画や実施された事業として、一庫ダムの建設(1983年完成)およびダム湖周辺環境整備、総合治水対策の基本方針を定めた「猪名川流域整備計画」の策定(昭和57年)、余野川ダム建設計画(のち建設中止)を含めた「猪名川総合開発事業」の着手(昭和58年)、現在のハザードマップに先立つ「猪名川流域の浸水予想区域図」の公表(平成元年)、河川空間の管理および整備方針を定めた「淀川水系猪名川・神崎川河川環境整備計画」の策定(平成2年)などがあります。

1997(平成9)年に河川法が全面改正され、河川環境の整備と保全などが河川管理の目的として新たに加えられました。これをうけて猪名川が含まれる淀川水系全体の整備方針の検討が行なわれ、2009(平成21)年3月に「淀川水系河川整備計画」が策定されました。この計画検討は、住民も参加する新しい手法で公開方式で行なわれ、全国的にも注目を集めました。
現在、猪名川など淀川水系の直轄河川では、この河川整備計画に基づいて河川工事などの各種事業が実施されています。

■近畿地整:淀川水系河川整備計画を策定しました
https://www.kkr.mlit.go.jp/river/iinkaikatsudou/yodo_sui/index090331.html

幹線道路の整備

道路や鉄道などの交通施設は、快適で活力ある地域形成の基盤となる各種都市施設のなかでも、最も重要なもののひとつです。猪名川流域における南北系の交通施設のうち、鉄道は比較的早期から整備が進んでいました。いっぽう、幹線道路の整備は、急激に増大した人口やモータリゼーションの普及に対して大きく立ち遅れていました。鼓滝付近の狭窄地形が交通上のネックにもなり、銀橋や旧呉服橋付近など猪名川の両岸での交通渋滞は日常の光景になっていました。

渋滞中の県道12号住宅団地方面に向う北行きの車線が渋滞する猪名川右岸の県道12号
銀橋下流の能勢電鉄の猪名川橋梁付近【1991年10月 撮影】

猪名川流域、とくに中流域では、南北方向の幹線道路である国道173号・176号で慢性化している交通混雑を抜本的に解消し、流域の人口や交通需要に見合った交通機能を確保することが長年の課題でした。

こうした交通問題を解決するための切り札のひとつとして、呉服橋の改築や猪名川の中・上流域と大阪市の中心部とを直結する自動車専用道路の建設、兵庫県道12号のバイパス整備が計画され、呉服橋の改築工事や阪神高速道路・大阪池田線の延伸部の工事などが進められてきました。

池田線延伸部は、豊中市蛍池西町から池田市木部町を結ぶ約7㎞です。ルートは空港ちかくの蛍池JCTから猪名川の左岸堤防に沿って北上し、池田床固の南側で一旦右岸に渡り、五月山の西麓で再び左岸に渡り返すという変則的な路線形です。用地の取得が難航したり、騒音問題などを懸念する地元からの反対運動もありましたが、1998(平成10)年4月に開通しました。この延伸にともなって、猪名川には猪名川第一橋梁と新猪名川大橋の2つの大きな橋が架けられました。

また、東西方向の広域的な高速道路網の整備として、渋滞が日常化している名神高速道路や中国自動車道の交通機能を強化する目的で、現在、新名神高速道路が建設がすすめられています。
猪名川流域では、中流域を東西に横断するルートで建設工事が行なわれ、2018年3月までに高槻JCTから神戸JCT間の約40㎞が区間開通しています。流域内のインターチェンジとして、余野川上流に箕面IC、猪名川中流に川西ICの2つのインターチェンジが設置されました。


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