川の利用者は野球好きの健常者だけに非ず

野球場ばかりが目につく河川空間

この猪名川のシリーズを書くにあたって、Google Maps の空中写真(衛星画像)で、現在の猪名川をざっと眺めてみました。大阪を離れて四半世紀が過ぎ、いまは600㎞ほどはなれた離れ小島のような所に住んでいます。たまに帰省しても猪名川に足をむける機会は稀ですので、大阪を離れたあとの猪名川の変化や現在の状況はよくわかりません。

現況の概要を把握するために、Google Maps の空中写真で下流の神崎川合流点から、上流の余野川合流点付近までの直轄区間をざっと見たところ、河川敷を利用したスポーツ施設、とくに野球場が増えているなという印象を受けました。

確かに河川敷を占用して設置された野球場は、昔から根強い人気がありました。とくに休日の野球場には、地元の住民や少年野球のチームだけでなく、河畔に立地する事業所や工場などに勤務している人など、多くのチームが試合をしていました。応援の人もたくさん詰めかけて、とても賑わっていました。

利用者で賑わう河川公園の野球場

草野球の大会が開かれ利用者で賑わいをみせる休日の野球場
池田市猪名川運動公園 【1991年9月 撮影】

熱心な野球愛好者といえども、個人や特定のグループが河川空間を排他的に利用するのは河川法上できません。河川敷にスポーツ施設などの公園を設置できるのは、流域の自治体などに限られています。

公園施設やグラウンドなどのスポーツ施設を設置できる範囲についても、河川管理に支障をきたさない高水敷など一部のエリアに限られています。自治体が占用手続きを行い、施設や工作物は河川管理者が認めた範囲でしか設置できません。設置できる場所、大水のときに流れを妨げたり流出する可能性のある工作物については、それぞれ細かい設置規則や管理基準が決められています。

藻川を含めた猪名川の下流は、5つの自治体に跨がって流れています。
そのうち、尼崎市と豊中市を流れる区間は、高水敷の幅が狭いため、野球場のような面的施設の設置は困難です。したがって、高水敷を占用した野球場は設置されていません。
いっぽう、伊丹市、川西市、池田市の3市を流れる区間は、高水敷の広い区間があり、野球場や多目的グラウンドなどたくさんの運動施設があります。野球場については、公式規格を満たした広さのものほかに、少し小さめのものも多数あります。正式名称は知りませんが、Google Maps上では「簡易野球場」と呼ばれているものもあるようです。

低水路に設けられた?簡易野球場?

このほか、低水路の幅に対して普段の流量が少ない猪名川の特性を利用したというか、流れの細いこと逆手にとって、低水路に砂礫が堆積した陸域に簡易野球場を設けているところが何箇所か見受けられます。
一例を挙げれば、9.4㎞付近の右岸、国道176号や中国道が猪名川を横断する橋梁の少し上流の川西市側です。


低水路に設けられた簡易野球場?のようなもの

この画像は、上が上流で、下が下流です。向って右側、左岸に設けられている池田市の猪名川運動公園の野球場は、以前からあった施設で、占用許可を得て高水敷に何面かが設置されています。
いっぽう、その対岸の右岸にある名称の書かれていない小さめの簡易野球場?は、25年前には確かなかったと思います。国土地理院が数年おきに空中写真を撮っているので、調べてみればすぐにわかりますが・・・・・・

通常、河川管理上、低水路へのこのような施設設置は認められないはずです。
なにか特別の理由で認められたのか、あるいは、誰かが自由使用として野球をするスペースとして使っているうちに、自然と簡易野球場ができたのかもしれません。

もし、そうだとしたら、ちょっと不思議ですね。

似たようなケースとして、藻川の低水路にも小さな野球場のようなところが数箇所あります。これらのうち一部の簡易野球場?は、25年以上前からあったと記憶しています。

いっぽう、川西市が正式な占用手続きをとって設置した野球場は、軍行橋の上流にある東久代運動公園のなかに、他の多目的グラウンドなどと同居する形で設けられています。市民などからの利用要望に対して野球場の数が少ないので、もっと増設したいと声は、以前から多くあったように記憶しています。

河川敷への車の乗り入れや駐車場設置の問題

Google の画像は、軍行橋上流の右岸にある川西市が設置した東久代運動公園です。

公園として占用許可を受けている範囲の一番北側には、比較的大きな駐車場が設けられています。また、グラウンドに面した堤防土手の下にも、駐車スペースが設けられ、多数の車が駐車しています。

以前、これら高水敷の駐車場はありませんでした。

もともと利用者のための駐車場は、堤防天端の西側にある公園管理事務所の北隣、堤防の市街地側に設けられた堤防側帯の上にありました。堤防側帯とは、堤防の隣接地に堤防と同じ高さに盛土をした場所です。本来は災害時に備えて、防災用土砂や護岸材料を備蓄しておくためのバッファ的なスペースです。

その堤防側帯を占用して駐車場に流用していた関係で、スペースが不十分だったようです。収容台数も十数台分に限られていて、かなり手狭だったのでしょう。市民から不便だという要望や、いつも満車で停められないという苦情が多く寄せられたのかもしれません。

そこで、高水敷を占用している河川公園の敷地内の一番端に大きな駐車場を設けたのでしょう。このほか公園内には、堤防の土手の下にも数十台分の駐車スペースがあるので、全部で100台ぐらい収容できます。
川西市は市域も広く、北へ15㎞前後離れた能勢電の日生中央駅あたりの市民の方が、試合や練習でここまで車で出てきて利用するケースもあるのでしょう。市民の要望によく耳を傾け、必要な施設の充実を図るという面では、なかなか市民サービスの良い自治体のようです。

しかし、多くの河川で環境整備のありかたや施設の使われ方を見てきた自分としては、高水敷など河道内への駐車場設置には賛成できません。車の進入を許すと、ゴミを持ち込んだりする弊害も懸念されます。

東久代運動公園の場合、運動公園を利用する市民などの車が、公園の一番北端にある駐車場にアプローチするためには、古い駐車場を通り抜け、堤防上の管理用通路を横断し、下流向きにつくられたスロープを降りたところでUターンし、高水敷の公園内通路(園路)を200~300mほど走らないといけません。

公園は、人が安全に安心して利用するために、車の乗り入れを極力避けるべき空間でです。自治体によっては、都市公園法などの法令を根拠に公園内への車馬の進入を規制しているところもあります。自転車ですら軽車両ということで、わざわざ条例を設けて乗り入れ禁止にしている自治体や公園もあります。

駐車施設がらみの河川敷への車の乗り入れについては、基本的には反対です。百歩譲って、駐車場を利用する車が高水敷へ乗り入れるとしても、駐車場への進入路と公園内の園路や散策路など歩行者系動線との交差は、例えば、淀川河川公園のように最小の1~2箇所だけにとどめるべきです。この東久代運動公園のような車の動線と歩行者系動線の併用は避けるべきです。

身体的なハンディを負った利用者の姿

最後になりましたが、河川敷や河川公園への車の乗り入れ規制を主張する理由のひとつをご覧にいれます。
以前は地元の箕面に住んでいたので、自転車に乗って猪名川のあちこちを見てでかけていました。各地を回っていますと、いろんな利用者がいろいろな利用形態で河川空間ならではの魅力を楽しんでいる光景を目にすることができました。

利用者のなかには、絶対数では少ないですが、身体的なハンディを負った方の姿も見かけました。自分が猪名川下流でたまたま見かけた例をご覧ください。

 車椅子でのリハビリ分派点下流の猪名川堤防天端を車椅子で散歩する人【1993年7月 撮影】

分派点近くの猪名川堤防天端でこの方をお見かけしたのは夏の暑い日の昼下がりです。
病後のリハビリテーションとして、車椅子を使って猪名川と藻川の堤防天端に設けられた自転車・歩行者専用道路を何キロか散歩をしておられました。
伺ったところ、体にマヒが残っていて俊敏な動作かできないが、ここは車が進入して来ないので安心して利用できるとのことでした。
この当時は、まだ最近のようなロードバイク・ブームではなかったので、河川敷の歩行者・自転車専用道路を傍若無人に暴走するローディと呼ばれる馬鹿もいませんでした。

 トレーニングに励むパラ・アスリート トレーニングに励むパラ・アスリートの後ろ姿【2009年12月 撮影】

こちらの方は、10年ほど前の年末に帰省した折、猪名川にでかけたところ、たまたま粟津橋付近の猪名川左岸でお見かけしたパラ・アスリートの方です。後ろ姿からでも鍛えられたスポーツマンだとわかる方で、風圧を避けるため上半身を前傾させた姿勢で車椅子に乗っておられました。
車椅子もふつうのとは異なり、軽量なカーボン製のホイールを履いた、車椅子マラソンなど競技用の車椅子です。北西からの季節風の強い大晦日でしたが、防災用道路をつかって車椅子競技のトレーニングに励んでおられました。声をかけて了解を得て、後ろ姿を数カット撮影しました。

身体的なハンディといっても、身体障害など外見上で判断できるものと、視覚障害や聴覚障害などそうでないものがあります。ですから、上の例は、ハンディを負った利用者のごく一部かもしれません。

さまざまな人々が川の魅力を楽しむ場所としての水辺空間

河川空間の利用には、「自由使用の原則」というのがあります。
自由使用と言っても、なにをやってもよいというわけではなく、ほかの人の自由使用を著しく妨げたり、ほかの利用者に危害を及ぼす可能性のある危険行為は、自粛するなり規制されるべきです。

そのような意味で、ひとつ前に取りあげた悪路走行を楽しむ河原のモトクロスや四輪駆動の自動車の低水路への乗り入れは規制されるべきです。
・河原のモトクロス https://takaginotamago.com/ina/ina103_ese-mx/

また、野球場ばかりが何面も続くような利用施設の設置は、設置した自治体が公園としての占用許可を得てはいるものの、実質的には野球以外には使えないので、限られた愛好者たちによる排他独占的な使用の許可を市役所が代行しているとの見方もできます。
現状のような特定のスポーツに偏った施設立地は、段階を踏んで改善されるべきであると思います。

もし仮に、野球でまちおこしをしたいのであったり、将来の阪神タイガースを担う有力選手を自治体ぐるみで育成したいのであるならば、交通の便のよい市内の適所に市の予算のなかから費用を投じて、観客席のある市民球場のような施設をつくるべきです。愛好者の多いダイハツあたりにスポンサーになって貰えると立派なのができるでしょう。

河川空間は、市街地で設置が困難なスポーツ施設を受け入れるために無償で使える余剰地ではありません。
自然公物である川の特性を活かし、無料でだれもが利用できる共有の空間として、さまざまな人々が川の魅力を楽しむ場所、川らしい多様な利用を受け入れる場所であるべきです。


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