運ぶ力と削る力

三ヶ井井堰下流の猪名川

猪名川流域で有名な地物はといえば、池田の「五月山」、「箕面の滝とサル」、「大阪国際空港」あたりでしょうか。
そのうちのひとつの大阪国際空港のすぐ西側を猪名川は流れています。

2本ある滑走路の長いほうの32Lの北端近くの猪名川には、三ヶ井井堰とい名の農業用の井堰があります。この井堰から下流に架かっている桑津橋にかけての区間の猪名川は、南に向ってほぼ直線状に流れています。

河道は真っ直ぐですが、低水路のなかには左右の河岸沿いに、砂州や河原が交互に見受けられます。猪名川の流れは、それらの隙間を縫うように左岸に寄ったり、右岸近くに行ったりしていて、河道のようにまっすぐではありません。

このような川のかたちは、傾斜のゆるやかな扇状地や平地を流れる下流の川によく見受けられる河川地形です。
両側にある大きな河原や砂州は、専門用語では「砂礫堆(砂礫帯)」と呼びます。このような場所の砂礫堆は、ずっと同じ場所にとどまっているのではなく、歳月の経過とともに少しずつ下流に移動していくことが知られています。

砂礫堆を下流に動かすのは、川の流れの力です。
この力を「川の営力(えいりょく)」とも言います。「営業力」ではありません。

このダイナミズムの詳しいことは、例えば次の書籍に書かれています。
▶井口昌平 著『川を見る 河床の動態と規則性』、1979、東京大学出版会

大水のでたあとの河岸

このシリーズの池田床固のところにも書きましたが、川の流れの力をもう一度、簡単に説明しておきます。
川を流れる水は、「削る」「運ぶ」「堆積する」という三つの力を備えています。小学校か中学校の理科で教わったことがあると思います。
普段、水位が低いときは流量も少なく、川の水の力のうち、「削る」と「運ぶ」はあまり大きくありません。しかし、大雨がふったあとなどに増水すると、「削る」「運ぶ」「堆積する」という川の力は普段の何倍にも大きくなります。

 洗掘によって生じた橋脚回りの穴流れによって形成された橋脚回りの大きな穴
木曽川の中流【2010年 撮影】

削る力が下方向に作用すると、川底が削られたり洗掘をうけて、河床の一部に大きな穴ができます。
水位があがると、この穴のところは深みになっていますが、水面下の様子が見えないときに不用意に近づくと、おぼれたりして水難事故を招く大きな原因になっています。
橋脚や堰などのコンクリートの工作物や大きな岩など固いモノの近くは、選択浸食といって川底が掘られやすいので、とくに注意が必要です。

いっぽう、削る力が横方向に作用すると、次の写真のようになります。

河岸が削られてできた崖 【1993年7月 撮影】
砂礫が削られて流され、水際には低水護岸が出現

何日か前に大水がでてこのようになったのでしょう。
堤防の近くにある会社の人が心配げに様子を見にきています。河岸にできた崖の高さは、人の背丈をはるかにこえています。
人の立っているところの足もとの崖の下方に注意してください。
よくみると、削られた砂礫堆の下からコンクリートの低水護岸が顔を出しています。

何年か、あるいいは数十年まえにつくられた低水護岸の前面や上部に、川が運んできた砂礫が堆積して砂礫堆ができた結果、護岸は地中に埋まってしまいました。
そして、何年か、あるいは何十年か後の大水によって、再び地上に顔をだしたというわけです。

まったく同じアングルではありませんが、大水によって削られる前の写真があったので、見比べてみるとこのような感じです。

河岸が削られ水際に崖ができはじめたころ【1991年10月撮影】

河岸に崖ができていて、水際が削られはじめていますが、堤防の土手との間にはまだ15mから20m前後の距離があります。

浸食がすすみ崖が堤防の土手に近づいた状態【1993年7月撮影】

こちらは、上の写真から1年半後の状態です。崖が堤防の土手の近くまで迫っています。

浸食がすすみ堤防土手の足もとに迫った崖【1993年7月撮影】
河岸の端からとったこの写真のほうが、崖と土手との距離感が掴めるはずです。
手前の下方には護岸のコンクリートブロックが顔を出しています。

大水に削られた範囲は、場所によって差がありますが、幅約10m前後、長さ数百m、高さ約4m前後といったところでしょう。土砂の量を大型ダンプの積載量に換算すると、たぶん数百台分になると思います。

以前につくられて、ずっと地中に埋められていた低水護岸がもしなければ、堤防まで削られていたかもしれません。

川の水の力、とくに削る力は、切れ味も鋭く、まことに恐るべしです。


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