地形図の折り方(2)

地形図の整理と収納

手持ちの地形図のうち、先の(1)に示した方法で8ツ折りにした地形図は750枚ほどある。地図のコレクターや地図マニアではないが、必要なものを何枚かずつ買っているうちに、塵も積もれば山となった・・・という次第である。

地形図の枚数が増えてくると、整理や収納もやっかいな問題になってくる。地図屋に置かれていたような平たい引き出しに整理するのが理想的だが、場所も費用もかかる。

今西先生の地図箪笥
今西先生の地図箪笥
今西錦司先生の地図箪笥
(資料:リバーフロント整備センター「FRONT」第5巻第9号、p.9、1993)

実物を拝見したわけではないが、今西錦司先生は地図箪笥をあつらえておられた。写真で見た箪笥は、引き出しが柾版の地形図がピッタリ入る寸法に誂えられている。15ほどの引き出しがあり、地域や20万の地勢図ごとに広げた状態で収納されている。引き出しの区分は、おおむね地域別であったり、20万図の図名ごとに分けられているが、最下段の引き出しだけは、なぜか「北海道・樺太・山口県」と区分されている。この区分も今西先生の美学なのであろう。

山行で携行するために折った地形図も、家に帰ってから丁寧に伸ばして、和室に置かれた地図箪笥の引き出しに収めていたという話をどこかで読んだことがある。

カゲロウの幼虫のスケッチからもわかるように今西先生はとても几帳面な一面をもっておられおられた。せっかく折った地形図を収納する際にもとの柾判にのばすことは手間がかかる。横着者にはとうてい先生の真似はできない。

フォルダーとボックスファイルでの収納

折った地形図は、ほぼすべてが外に持ち出して使うものなので、収納や保管方法も持ち出しやすいことを念頭において整理している。
具体的には、8ツ折の地形図をA5判のフォルダーに放り込み、そのフォルダーをA4のボックスファイルに収納する方法を採用してきた。区分の基本単位は、ボックスファイルが20万分の1地勢図で、フォルダーが5万分の1地形図の図郭番号である。実際の運用は、収納枚数やフォルダーの数をリジットに区切らずに、手持ちの範囲と枚数に応じて柔軟に決めている。
この方法だと750枚ほどの折った地形図が約80のフォルダーと14ケのボックスファイルに収まる。試行錯誤してあみだした方法で、整理に手間もかからず持ち出しもしやすい。
日本全国どこの地形図でも30秒以内で取り出すことができる。地図専門店の番頭ほどすばやくはないけど、見習いの丁稚ぐらいにはなれるだろう。横着者にぴったりの合理的でええ方法だと自画自賛している。

「平成14年式」の折り方

ところが、21世紀になって少し困ったことが起きた。世界測地系への変更にともない、2002(平成14)年に2万5千分の1の地形図の図式や整飾が改訂された。地形図の体裁も大幅に変更されたのである。
新しい「平成14年式」では、柾判の用紙をめいっぱい使って図郭が広げられ、図郭線のまわりの整飾(レイアウト)もかなり大胆に一新された。つまり、これまで続けてきた折り方ができなくなってしまった。

折り方は新しい図式にあわせて変えなければならないが、折った地形図の収納や保管方法はこれまでのやり方を変えたくない。現在まだ試行中であるが、いまのところ次のような折り方をしている。

従来との違いは、図郭線を山折りする2辺のうち、「右」を「左」に変更したことである。「地」は従来どおりである。
横方向を4ツに屏風折りするのも従来と同じだが、最後に縦に2ツ折りする際、「逆く」の字に折っていたのを「く」の字に折るように変更した。これは整飾(レイアウト)の変更によって図名・図歴・検索図などの表示位置が変わったことに対応するためである。

8ツ折にした地形図8ツ折りにした「平成14年式」(左)と「昭和40年式」(右)

その結果、8ツ折りにしたサイズはひとまわり大きくなったが、これまでと同じくA5判のフォルダーに収納することができる。折った状態で図名の表示が右上になったので、ファルダーに入れたままで必要な図を捜しやすくなった。ただし、従来の折り方をした地形図と一緒に束ねるとサイズが不揃いになる。束ねたときに扱いにくいし、見苦しいが、これは仕方がない。

電子地形図25000など新しい図式の登場

国土地理院のサイトをみると、2012年8月から「電子地形図25000」が提供されている。この電子地形図は紙に印刷した地形図ではなく、画像形式の地図データでの販売となっている。データ形式はJPEG・TIFF・PDFの3種類である。発売後しばらくして、地理院デジタル製品恒例の初期不良(データの不具合)が見つかったようで、2013年5月からしばらく販売停止になっていた。修正作業は2014年2月末までに完了し、ほどなく販売が再開されたようだ。

電子地形図25000 定形図郭版

この電子地形図25000には、「自由図郭版」と「定形図郭版」がある。自由図郭版のサイズはA0からA4の5種類で、それぞれ縦か横かを選択できる。また、定形図郭版は世界測地系の2次メッシュを単位とした図郭である。

データを購入してA2横の用紙にプリントすると、印刷物として刊行されている地形図によく似たものとなる。但し、図式やレイアウト、図郭の大きさなどの細部は異なっている。

電子地形図25000電子地形図25000 定形図郭版 のレイアウト

ところで、この文を書くために試しに定形版のデータを1枚購入してみた。地理院のサイトでデータを指定し、地図センターのサイトからダウンロードで入手できるのでたいへん便利である。
定形版の図式は「平成24年電子地形図25000図式」となっている。この図式では、凡例が図郭の右側に配置されている。これは、2002(平成14)年に改訂された「平成14年式」の図式や整飾とは大きく異なっている。

用紙のサイズも、柾判とA2判では少し違う。したがって、8ツ折にする際の折り方や折り上がったサイズも、現在使っている紙の新旧地形図とは違うものとなる。

この電子地形図25000は、紙の地形図に比べて地図情報の更新も頻繁に行なわれている。新しい道路ができた地域や市街地などでは、情報の鮮度はよく、実用性も高い。

しかしながら、この電子地形図を自分でプリントして使うとなると、いくつかの問題点が生じる。
ひとつはA2判が出力できる大きなカラープリンターは、普通の家庭にはないので、一枚ものの紙地図に印刷するのが簡単にはいかないことである。仮に、都会にある出力センターなどでプリントできたとして、紙の地形図とは別の規格の地形図が混在することになる。
また、データをコピーした地形図と紙の地形図では、紙質やインクの定着度も違う。透かしの入った紙の地形図は、地図用に特別に漉かれた専用紙が使われている。風雨にさらされることの多い屋外で耐候性や耐久性も高い。いっぽう、カラーコピーの用紙にはそのような配慮がないので、使っているうちに折り目から破れてくるだろう。
些細なことかもしれないが、これらの違いもまた頭の痛い話である。

混在する複数の図式

デジタル化に対応した図式の改訂にあたふたしているうちに、2009(平成21)年には「平成21年2万5千分1地形図図式 」が制定された。ただし、図式が制定されたものの、この図式の地形図は公刊されていない。
さらに2014(平成26)年には「平成25年2万5千分1地形図図式 」という図式も登場した。この図式は印刷物として刊行されている紙の2万5千分1地形図のうち、デジタル化した地図情報である電子国土基本図を用いて作成したものに適用されている。
「平成25年式」では3色刷りから多色刷りに変更され、カラフルになった。全体のレイアウトは、ざっと見たかぎり「平成14年式」や「平成21年式」と似ている。しかし、上にみほんを示した「平成24年電子地形図25000図式」定形図郭版とは、たった1年違いであるが大幅に異なっている。

一貫性に乏しい図式の混在は、ほんまに困ったものである。

地形図の行方

『緩和措置』としての紙地形図の刊行

公式見解かどうかわからないが、国土地理院にとって紙の地形図の刊行はお荷物であるらしい。
例えば、『国土地理院時報』には次のような記事も見受けられる。

紙地図の刊行は、地図情報に対する理解や整備が順調に進んだ場合には、1万分1地形図や5万分1地形図と同様に、いずれは地図情報に収束する方針が示されている。当分の間、地形図の刊行を継続することは、これまでの紙地図ユーザの急激な変化に対する緩和措置としての対応である。(国土地理院時報 2009 №118)

少し補足すると、引用文中に「1万分1地形図や5万分1地形図と同様に」とあるのは、「内容(地図情報)の更新を行なわない」という意味である。
「紙地図ユーザの急激な変化に対する緩和措置としての対応」というのは、日本語としてやや難解な表現である。いわゆる典型的な官僚言葉であるが、「気づかれないようにしていずれ撤収しますよ」という意味にもとれる。

紙地形図の現在と未来

最新の情報が印刷された地形図が容易に手に入るというのは、これまでは当たり前のこととして享受してきた。
地形図の刊行は、(1)国が平和であること、(2)国家事業として地形図の発行が続けられていること、という2つの条件の上に成り立っている。

軍事機密扱いの地形図軍事機密に指定された戦時下の地形図
参謀本部5万「今市」昭和9年修正測図(部分)

1878(明治11)年に2万の1迅速測図の制作に着手されてから約140年、1910(明治43)年に2万5千分の1地形図の整備が開始されて100年以上が経過した。
嘘を重ねても戦争がしたくてたまらない総理が長期にわたり政権を握り続けたことで条件のひとつに靄がかかり、先がよく見通せなくなりつつある。また、2007年に地理空間情報活用推進基本法が制定されたが、情報の記録方法をデジタルとしたことによって、紙の地形図の刊行は法の後ろ盾を失ってしまった。

ところで最近の登山者には、紙の地形図と磁石をもたずに、スマホに取り込んでおいた電子地図と内蔵のGPSで済ます人も多いという。紙の地形図の売上げも落ちているだろう。電子地図はバッテリーが切れたり、表示する機器が不具合になったら一巻の終わりだ。バックアップなしで電子化の産物に命を託すのは自由だし、自分の危機管理は自己責任でやればいい。

紙地図には紙地図の良さ、電子地図には電子地図の良さがあるわけだから、ユーザーが自由に選択できるようにするべきであろう。新幹線が開通するとその区間の在来線を切り捨てにするのは営利企業のやり方である。国家事業であるならば、地形図の刊行と電子地形図による情報提供をともに継続すべきである。

紙の地形図には、モニターやバッテリーに依存する電子地図に代えがたいメリットがある。例えば、電池切れとは無縁であること、低温や雨雪にも耐えうること、広範囲を把握できること、自由に書き込みのできることなどである。道のない山中でビバークを余儀なくされ、暖をとるために燃やすこともできるし、実際そういった経験もある。

紙の地形図には、せめてあと10年か15年ぐらいの間は、現状を維持しながらがんばって欲しい。


この「地形図の折り方(1)および(2)」は、2012年10月と2014年7月に旧ブログ MyMaps に掲載した「地図の折り方(1)~(4)」をもとに、加筆・修正し再構成したものである。


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