ジェット旅客機は空の階段を “ダンダン” と降りる
■GPSとSA解除
GPS(Global Positioning System)は、人工衛星からの電波を受信して、自分の今いる位置や高度を知るシステムです。
もともと軍事用でしたが、いまではカーナビに搭載されたり、携帯やスマホにも内蔵されてすっかり一般化しました。GPS受信機も年々小型化し、超小型のものを体につけられて行動を監視されているイヌやクマ、「好ましからざる人」もいます。
もうひと昔以上まえになりますが、GPSの精度がぐんとあがりました。
それまで民生用のGPSには精度をわざと悪くする「SA」というニセの情報が混入されていました。一種のノイズです。精度が向上したのは、世の中が平和になり、その雑味が取り除かれたからです。
当時、発売されてまもない腕時計型のハンディGPSを手に入れて、位置情報がどの程度信頼できるかを試したことがあります。
それは新幹線と飛行機へ持ち込み、窓際の席で高速での移動時や飛行中にも電波がちゃんと受信できるのかを自分で確認してみることでした。
■新幹線と飛行機で受信テスト
新幹線では時速300kmでの移動をちゃんと追尾できたものの、山陽新幹線はトンネルが多すぎてログの取得ができない区間も多く、移動経路の記録は不完全なものになってしまいました。
いっぽう飛行機は、西日本の地方空港から羽田へ飛ぶANAの定期便でテストしました。画像はそのときの受信したログから飛行高度の変化を示したものです。空には遮蔽物がないので、衛星が発した信号の受信状況も良好です。地方空港のスポットを離れてから、羽田のスポットに到着するまで、まったくとだえることなく電波を受信できました。
ログで高度の変化と飛行経路をみてみます。
離陸後、巡航高度に達するまでは、おおむね一気に上昇しています。しばらく巡航高度約9,500mで水平飛行したのち、離陸から1時間ほど経過してから降下をはじめます。
場所でいえば伊豆半島上空を過ぎたあたりです。羽田までの飛行ルートは房総半島の南側を大回りするので、距離にしてまだ200km以上あります。
離陸から着陸までの高度変化
伊豆半島上空から羽田への飛行経路
■空の階段を降りる
飛行機は大島上空で高度約7,500mまで降下し、しばらく(距離で約40km)水平飛行。大島東方約60kmの地点で高度約5,300mまで降下し、また30kmほど水平飛行。といった感じで、管制官から指示された飛行高度(実際はフィートで指示がある)まで段階的に降下しています。羽田に近づくにつれ、空の階段は次第に小刻みになっていきます。
巡航高度から地上に降りる空の階段
GPSのログからわかったことは、高度を下げるときは階段を降りるようにダンダンと高度を下げていくということ。それまでは、てっきり長いスロープを下るようにゆるやかなカーブ、またはゆるやかな角度の直線を描いて降りるのだと思っていました。
西日本の各地から羽田に向かう飛行機だと、伊豆半島上空にさしかかったあたりでシートベルト着用のランプがつきます。機内では、「これから飛行機は徐々に高度を下げてまいります。シートベルトをお締めください。座席の前のテーブルをしまって、リクライニングは元の位置にお戻しください。」というCAのアナウンスが流れます。
GPSのログに基づいて、巡航高度から着陸するまでの高度変化をより正確にいうと「段々と高度を下げてまいります。」なのでしょう。
空の階段をダンダンと降りてきた飛行機も、フラップがでて滑走路に向かって降下する一番最後の段階だけは、ゆるい坂道を降りるような航跡になります。細かな高度の調整が必要ですし、できるだけショックを与えないように着s地するためでしょう。けど、なかには最後まで階段を降りていて「ドカン!」とタッチダウンしてしまう豪快な機長もいてはります。ダイナミックな着地の時は「今日の機長はへたやな」とパイロットのテクニックを疑ってしまいがちですが、強い横風など悪天候の条件下であえてハードにランディングし、スリップを防ぐ高度なテクニックもあるそうです。
飛行機の操縦は奥深く、客席にぼやっと座っているだけではわからないことも多多あるようです。
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