『WEST EXPRESS 銀河』が山陰ルートで運行開始!
新大阪駅で出発を待つ特別急行「やくも」【1967年10月撮影】
かつて新大阪~(福知山線経由)~山陰間で運転されていた昼間特急
つい先日(2020年9月11日)のニュースで、新型コロナの影響で運行開始が遅れていたJR西の新しい特急列車『WEST EXPRESS 銀河』(以下、『WE銀河』と略記)が山陰コースで運行をはじめたというのを知りました。コロナ禍の影響で運行開始が予定より大幅に遅れたようです。
WE銀河は、JR西日本に久々に復活した在来線の夜行列車で、寝台車と座席車を併結した特急列車です。
近年、JR各社が運行している『ななつなんちゃら』や『しきしま』とかの富裕層向け高級ツアー列車とは異なり、富裕層ではない一般庶民が特急料金(グリーンに乗車する場合はグリーン料金が必要)で乗れる夜行の特急列車という位置づけです。
最寄り駅の新山口からですと、山口線と山陰本線経由で出雲市か松江あたりまで在来線の特急「スーパーおき」に乗り、時間を調整して上りの「WE銀河」に乗り継げば、不急の際の大阪への移動にも使えるなと喜んで、ダイヤや切符の購入方法を調べてみました。
しかし、調べた結果は、まったく利用できない大きな問題を孕んでいることがわかりました。逆方向で新大阪から出雲市に向かう下りでも同様です。
■JR西日本から当初発表された運行概要【2019/11/20 発表】
1.運行開始日
・2020年5月8日
2.運行概要
・2020/05~09:山陰方面(京都・大阪~出雲市)
・2020/10/~2021/03:山陽方面(大阪~下関)
3.料金
・特急料金:現行の特急料金と同額
・グリーン料金:現行のグリーン料金と同額
・グリーン個室料金:新規に設定
4.切符の発売箇所
・JR西日本インターネット予約「e5489」
・「JR-WEST ONLINE TRAIN RESERVATION」
・全国の駅のみどりの窓口および旅行会社窓口
●ソース https://www.westjr.co.jp/press/article/2019/11/page_15269.html
日本旅行のツアー客以外は乗られないという運行実態
本案件の問題点は、次の2つです。
(1)切符の販売をすべて子会社の「日本旅行」が牛耳っていること
(2)『WEST EXPRESS銀河』が日本旅行のパックツアーの客寄せパンダに使われていること
(1)については、本来は、ほかの特急券などと同様にみどりの窓口などで、公正公平に販売すべきです。しかしながら、WE銀河の人気が高まると、指定席など切符の入手に抽選なども必要となります。
ここは百歩譲って、特定の旅行会社が販売窓口となるJR西のやり方を認めましょう。
しかし、(2)については断じて絶対に許せません!
鉄道に詳しい知人によると、WEST EX銀河の車両は新快速で使われていた旧型車両の内外装を改装したものだそうです。ネットで調べたところ、1980年に旧国鉄が新快速用として新製した2扉・方向転換のできるクロスシートの117系という車両が使われているのがわかりました。この117系は国鉄分割民営化のあと、1989年にJR西日本が投入した後継の221系に順次置き換えられていったそうです。たった10年で選手交代させるとは、もったいないはなしです。
現在はJR西日本の車両なので、EX銀河への改装費用はJR西が負担しているはずです。ベースとなった国鉄時代の旧型車両を含めて、車両整備や改装に要した費用の一部は、われわれが支払った税金や旅客運賃の一部が使われているはずです。
少なくとも、車両は日本旅行という一私企業の所有物ではありません。
運行もJR西日本が保有し、同社が保守・管理する線路のうえを走り、乗務員や運行管理や保守要員もJR西です。つまり旧国鉄を母体とする公共的な性格の非常に高い企業が、ほかの列車の運行管理と同様に旧国鉄の資産である線路や設備を使って運行に当たっています。もちろん設備更新はしているでしょうが、ベースは国有財産でした。
JR西日本は、安全をないがしろにしたために多数の死傷者をだした福知山線の大事故と同様に、過去の公的資産があったからこそ今日があることを忘れてもらっては困ります。
福知山線事故当時に配布された社内文書
「お客様との対応においては、お話やご意見を十分お伺いするよう」と
記されている。こうした姿勢は、事故の時に限らず平素から重要なことである
鉄道は誰もが自由に利用できる公共財であるべきである
JR各社は、そもそもの母体が旧日本国有鉄道です。国有鉄道の基盤整備は、明治時代から営々と国費で実施されてきたこと、これまでに多額の税金が投入されていること、鉄道は誰もが懐事情に応じた列車を選んで自由に利用できる公共財であるべきであることをJR各社は忘れてもらっては困ります。
もし、鉄道会社にとって収益性の高いドル箱列車だけを走らせたいならば、鉄道用地の取得、線路の敷設、信号設備の設置、駅舎の設置、車両の建造、運転・保線・保安要員の育成など、すべてを自費で一からやっていただきたい。
公共財であるべきはずなのに、JR西日本は子会社である日本旅行と結託して、アウトソーシングの名のもとに子会社への利益誘導を図っています。また、日本旅行は独占販売ができる優位な立場を不当に利用して、乗客を自社のパックツアーに囲い込み、公共財を使って巧みに自社への利益誘導を図っています。
その手口は、上りと下りで若干異なりますが、例えば、上りでは2泊3日のツアーの一部に『WEST EX銀河』の片道だけを使用し、大阪でホテルに1泊、もう片道は新幹線と在来線の昼間特急を利用といった類のツアーを組んでいます。
https://www.nta.co.jp/jr/train/westexpressginga/
WE銀河の車両はおそらく一編成しかないのでしょう。運行本数や座席数が限られるため、いろんなツアーで巧みに使い回して、たくさん儲けようという魂胆でしょう。
初めて夜行の急行「ちくま」に乗ったのは、1970年12月、高校山岳部の冬山合宿の時でした。出発時間の何時間もまえから大阪駅北コンコースに並んで、ようやく席というか、車内に居場所を確保しました。車内は、学校山岳部と社会人山岳会、スキー客で満員で、戦後すぐの買い出し列車を思わせるような大混雑ぶりでした。通路も人と荷物でいっぱいで、車掌さんは座席の背もたれの上を飛び石伝いのように歩いて車内を行き来していました。
以来、ちくま、アルペン、きたぐに、立山には数百回は乗っています。
1980年代の後半になると、日本海縦貫の寝台特急で東北の山に通っていましたが、国鉄からJRになったころを境に、長距離夜行列車の削減・廃止がはじまり、ご存知のようにいまは潰滅状態です。
自分は、公共交通機関である鉄道を維持する観点からも長距離移動は断然鉄道派です。列車間の接続が多少悪くても、時間に余裕がある限り、速いヒコーキや便利なクルマではなく鉄道を使います。
特急料金とグリーン乗車時のグリーン料金以外に法外な割増し料金なしに乗れる夜行列車が復活したのに、子会社の旅行会社が囲い込んだ自社のツアー客以外は乗れないのは、なんとも腹立たしいことです。
もし、このような意見に同調してくださる方がおられたら、JR西日本へ抗議の声を届けましょう。窓口はこちらです。
https://www.jr-odekake.net/info/info.html#contact
なお、JR西への問い合わせ対応は、JR西日本本体ではなく外部委託です。実際の対応は、関連企業のJR西日本カスタマーリレーションズという企業が担当しています。
先日、要望を電話で申し伝えようとしたところ、不都合をコロナのせいにする場当たり的でいいかげんな対応するオペレーターに当選しました。
不適切な対応をするオペレーターは一部でしょうが、電話で伝えようとすると、時間と労力のロスに繋がりかねない不安定要素が存在しています。
利用者からの要望や意見を本社担当部署の責任者へ確実に届けるために、電話ではなく、メールでの連絡と要望に対する回答を要求することをお薦めします。
要望に対するJR西日本からの回答とその矛盾点
2020年9月13日に、JR西日本の問い合わせ窓口にメールで上述の疑問点をただしたところ、翌14日に回答を得ました。
まず、利用者からの要望等に対する迅速な対応については、率直に評価します。
回答の主旨は、次の(1)と(2)に記したとおりです。
これらの回答については、すべて納得の得られるものではなく、その要点を(3)に記します。なお、最重要と考えている質問項目(パック旅行への組み込み)については、的確な回答は得られませんでした。
(1)コロナ対策としての乗客への連絡体制の確保
感染者が発生した場合にも対応できる連絡体制を整備するため、当面の間、グループ会社である日本旅行が企画、実施する旅行商品として発売することとなった。
(2)今後の発売方法
今後については、社会情勢を見極めつつ検討する。
(3)パックツアーに組み込まれた形での特急券(指定券)の販売について
この点に関する直接の明快な回答はなく、上記(1)に示したようにコロナ対策にすり替えている。
ちなみに、JR西日本のいうコロナ対策の実態について、乗車して見聞したことを記す。
直近で8月18日と8月30にJR西日本が運行している山陽新幹線の「みずほ」と「さくら」(新大阪~新山口間)に乗車したが、乗車前後を含め、感染者が発生した場合に備えた住所や連絡先の聴取は一切なかった。つまり、同じ特急である「みずほ」や「さくら」では乗客に対して、JR西日本が(1)で理由として回答した「感染者が発生した場合にも対応できる連絡体制」はまったくとられていなかった。
なお、指定席切符は、片道は駅の窓口で「発売済みのほかの乗客と離れた席を」と希望し、片道は大阪駅東口の自販機で無条件(自販機では詳細指定ができない)で購入した。
乗車時、往復とも、車内の乗客数は普段より少ないと思われたが、車内の指定席の発券状況は同じ車両内の一部にやや偏在していた。真後ろの席にも乗客がいたので、いわゆるソーシャル・ディスタンスは不十分であった。
また、8月後半の在阪中に、東海道本線、おおさか東線などの在来線を複数回利用した。その際も、車内の乗客数は普段より少ないと思われたが、「感染者が発生した場合にも対応できる連絡体制」はまったくとられていなかった。
このように、8月下旬において、JR西日本が運行する複数の列車に乗車した範囲ではる、JR西日本のコロナ対策への配慮は十分であるとは思えなかった。
コロナ対策とは、とりもなおさず、『乗客の安全管理』そのものである。
【2020/09/14 追記、09/15補遺】
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