川で見つけたもの(1) 川を描くひと 斐伊川

このシリーズの第1弾にご登場願うのは、一心に川の絵を描いているおじさんです。

といっても、そこいらにいるただのおじさんじゃございませぬ。そう、文化勲章を授与された日本画のH画伯です。

4月のある日、堤防のうえから斐伊川にかけられた小さな橋の写真を撮っていました。撮影を終えて三脚をたたみ移動しようとした矢先、マイクロバスがとまり、数人が降りてきました。あっというまにテーブルとイスがしつらえられ、日ざしをよける傘持ちのアシスタントの女性をしたがえて画伯がスケッチを始められました。

出雲路を訪ねるテレビ番組のロケのひとこまです。

大きな傘は、お肌を紫外線から守るためにではなく、白いスケッチブックに直射日光があたらないようにするためでしょう。

画伯の視線は、令夫人がわたっている小さな橋に向けられています。垣間みたスケッチのでき具合は・・・でしたが、筆の運びはとてもすばやいものでした。

これは余談になりますが、H画伯は東京美術学校(現東京藝大)を次席で卒業されたそうですが、その年、主席だったのは、のちに絵筆をもつことを断念された橋上をゆく令夫人なのだそうです。


■Memo

平山邦夫画伯【1930-2009】を河畔でお見かけしたのは1996年の春のこと。斐伊川に沿って下流から上流へ移動しながら、川の写真を撮っている時でした。斐伊川に架かっていた小さな橋の風景が気に入ったので被写体に選びました。それが画伯の絵心とたまたまが一致したのかもしれません。

このとき画伯は66歳。前年に東京藝術大学学長を退官され、日本育英会の理事長に着任されたばかりのころです。ご多忙のなかでスケジュールをやり繰りしてのTV出演とロケだったのでしょう。野次馬を気にすることなく、スケッチのすばやい筆運びも、プロフェッショナルとして当然のことだったのかもしれません。

改訂に際してネットで検索をかけてみると、このとき画伯が描かれたスケッチに彩色した作品がみつかりました。著作権の制約があるのでここではお見せできませんが、撮った写真と画伯のスケッチは同じアングルでしたので、スケッチにあわせてトリミングし、タッチを似せて加工してみるとこんな感じになります。

作品の右下には「斐伊川 斐川町阿宮 出雲路 郁夫」のタイトルとサインが記され、落款が押されています。ネットの個人ブログに図録の画像がアップされたもの思われます。そうであるならば、どこかの美術館が所蔵しているのかもしれません。

お見かけした翌年の1997年には、故郷の広島県瀬戸田町にご自身名を冠した美術館が開館、1998年に文化勲章を受賞されています。さらに、2001~2005年には2度目の母校の学長を務められました。

・斐伊川/島根県
・撮影:1996/04、旧版公開:1999/12、改訂版公開:2017/02


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