安曇川の水害防備竹林
「水害防備竹林」とは、川沿いや堤防に沿って分布している列状の竹林のことで、「水防竹林」と略して呼ばれることもあります。これらは竹の研究をされた故・上田弘一郎博士が命名されたものだと思います。河畔の竹林には、自然に生えているものもありますが、近世以降に防災を目的として植えられた水害防備竹林も各地の川に現存しています。
吉野川などの川幅のある大きな川では、河道の中に竹林が分布している場所もあります。河道内の竹林は、洪水時に堤防に当たる流れの勢いをやわらげることによって、堤防を決壊から守ります。
また、堤防の低いところや堤防のない箇所では、竹林が洪水の勢いを和らげる緩衝装置やフィルターの役割を果たします。川が流しきれない洪水の一部は、竹林を通り抜けて川沿いの田畑に一時的に流れ込みますが、その際、密生する竹が抵抗となって、氾濫流の流れをゆるやかにします。そして、田畑の耕土を洗い流したり、岩石が田畑に流入したりするのを最小限に押さえるという水害防備効果を発揮します。
洪水が引いた後、田畑には流れが運んできた土がうっすらと堆積します。これらは「流水客土」といって、作物の生育を助ける肥えた土です。
増水で田んぼが水に浸かった数日後、もう一度見にいきました。稲の状態は、ご覧のとおり。
近年、圃場整備や堤防をつくるために、せっかくの水害防備竹林が伐開されている現場を見かけることがあります。事業にとって竹林は邪魔もので、新しい堤防ができればお役ご免ということなのでしょう。
竹林が減っていく背景には、農作業や暮らしのなかで竹製品を使うことが少なくなり、竹の経済的価値が低くなってしまったことも関係しています。
洪水や氾濫がおきても、水害を最小限度にとどめることができる河畔の竹林は決して無用の長物ではない。このことを知っているのは、田んぼに住むカエルだけなんでしょうか。
Memo
- 滋賀県・安曇川、山口県・厚東川
- 撮影:1999/06(厚東川増水時)、1999/07(厚東川平常時)、 1999/09(安曇川)
- 旧版公開:1999/07/15、改訂版公開:2017/04/28
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