(28) 競輪は渡し舟にのって 多摩川

ある日の昼下がり、川崎市の稲田堤のあたりを多摩川に沿って歩いておりました。川岸には貸しボート屋がありますが、ボート遊びをする客はいません。休日は水辺でのひとときを楽しむ人々で賑わう多摩川も、さすがに平日は閑散としているんだな、などと思ったのもつかのまのこと。

堤防の向こうにある稲田堤駅のほうから、男たちが三々五々やってきては、貸しボート屋の受付になっている屋根舟を通りぬけ、係留されている1隻のボートに乗りこんでいきます。不思議なことに、みなさん顔なじみなのか軽く挨拶をかわしているようです。それに、舟に乗りこむ動作もかなり慣れている様子。

10人ほどが乗りこんだところで、船外機のエンジンがかかり、舟は対岸めがけて出発していきました。
10分たらずで客をおろした舟が対岸から戻ってきました。貸しボート屋のところには、すでにお客が数人、次の舟をまっています。

どうやら渡し舟のようです。ボート屋のお兄さんに乗ってもよいかと尋ねたところ、黙ってうなづいたので、料金を払い船上の人となりました。

ほかの客はといえば、みなさん一様に競輪の予想紙に真剣な眼差しを注いでいます。それとなく聞けば、対岸にある京王閣競輪にいく客を乗せる渡し舟のようです。JR南武線沿線から京王閣にやってくる競輪ファンは、多摩川を渡るため稲田堤駅で降りて、少し離れた京王相模原線に乗り換えなくてはなりません。歩いたり乗り換えの電車を待つよりも、この舟で渡ったほうが便利だとのことです。

このあたりは昔「菅の渡し」という渡し場だったところで、貸しボート屋がやっているのは、競輪開催日のみ運航している臨時の渡し舟。昭和50年ごろを境に、日本の川からほとんど姿を消してしまった渡し舟ですが、ひょんなことから都会の川で再会することができました。


Memo

・多摩川/東京都・神奈川県
・撮影:1996/06
・旧版公開:1999/09/21、改訂版公開:2017/05/17


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