(32) ナダラのある川辺 沖田川

ここは山口県の西北部、響灘にそそぐ小さな川の河口近くにある漁村の水辺です。川岸に建つ家の裏には、川に張りだした物干し台があり、洗濯物が川風を受けてはためいていました。

木や竹を組んでつくられたこのような物干し台は、この地方では「ナダラ」あるいは「タナ」と呼ばれています。おそらく、このような棚が川岸に並んだ様相から、「並んだタナ」が転化し「ナダラ」と呼ばれるようになったものと思われます。

ひとつのナダラの大きさは、間口が2間で、川に向かって1間の掛けだしとなっており、床は柱に渡した杉丸太の上に丸竹が敷き詰められています。エアコンが普及するまでは、夕涼みの場としても利用されてきました。川風の吹くこのナダラの上にちゃぶ台を出して、夕げの食卓を囲んだそうです。

護岸整備やエアコンの普及といった生活様式の変化などで、現在、ナダラのある家は少なくなってきました。減ってしまったとはいえ、今でも漁に使う網や小魚などを日光と風にあてて乾燥させる場として利用されており、空いているときには洗濯物の干し場としても活用されています。限られた面積の土地にに家々が軒を連ねる漁村の暮らしは、家の裏を流れる川の上をうまく利用するナダラを生みました。

ナダラはこの地に古くからあった和風のテラスやベランダのようなものです。そういえば、京都を流れる鴨川の夏の風物詩「川床」も、起源はやや異なりますが、同じような発想でつくられたものといえます。


Memo

・沖田川・山口県
・撮影:1999/07
・旧版公開:1999/10/19、改訂版公開:2017/05/31


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