江戸川を渡る矢切の渡しは、現役で残る数少ない渡し舟のひとつ。もともとは江戸時代に農民のために設けられた渡し場でした。現在ではもっぱら観光用として、帝釈天や伊藤左千夫の小説『野菊の墓』の舞台となった江戸川べりを訪ねる人々を運んでいます。
休日の昼間は賑わいをみせる渡し場も、就航時間の終わりに近づく日没ごろには、徐々に川本来の静けさが戻ってきます。矢切側から柴又に帰るたくさんの人を乗せた舟が着きました。折り返して柴又発の最終便となりますが、対岸に着いても柴又にはもう戻ってこれないので、この便に乗る客は数えるばかり。
船頭さんの巧みな竿さばきで舟着き場から離れると、今度は手に櫓を持ちかえ、ゆっくりと対岸をめざします。夕日をうけて紅に染まる川面を静かにすすむ舟。かつてこの渡し舟にのって家路についた農家の人たちの目にも、こんな夕景がうつっていたのでしょう。
対岸で舟を降りて最寄の矢切駅までは、畑のなかを抜けて河岸段丘の坂を登る夜道となります。川らしい風情を味わいたいという方には、柴又発の最終便をおすすめいたします。
Memo
・江戸川・東京都/千葉県
・撮影:1999/11
・旧版公開:1999/12//25、改訂版公開:2017/08/21
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