(44) 明暗を分けたるもの 玄倉川

ダム湖に沿った県道を車で走り、湖畔にある最奥の集落を抜け、舗装された林道に入ってわずか数分。小さな堰堤のある狭窄部を抜けると、寂寥感の漂う冬の河原が視界にとびこんできました。
この地を訪れたのは、水難事故から半年が経過した月命日の翌日。毎月欠かさず訪れる人々によって手向けられたいくつもの花束が中州のあった場所に残されています。置かれたばかりの真新しい供花も見受けられました。

キャンプをしていた河原を取り囲む山肌は急峻で、岩場や崩落を繰り返すルンゼやガレ場がそこかしこに点在しています。人里近くにありながら、おだやかな里山という雰囲気はあまり感じられません。冬の流れはやせ細っているものの、そこには厳しい奥山の姿がありました。
都心からこの地まで、現在なら高速道路をつかってわずか2時間の距離です。車も河原のすぐ近くに横付けできます。しかし、ダムのなかった少し昔なら、麓の町からでも歩いて半日以上を要したでしょう。

なぜ中州でキャンプしたのか?とか、なぜ逃げなかったのか? など問題点が指摘されています。事故を招いた原因を挙げれば、まったく言われるとおりです。
しかしながら、明暗を分けたるもの、それは文明の利器に慣れるにしたがい、生活圏と自然との間に存在する距離感を失ってしまった人の心のように思えました。 合掌。


Memo

・玄倉川/神奈川県
・撮影:2000/02
・旧版公開:2000/02/24、改訂版公開:2017/09/10


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