(53) 川の民

川の民

都市を流れる川の下流や河口付近には、船を住まいとする人びとがいました。好ましい言葉ではありませんが、行政用語で俗に「水上生活者」と呼ばれた人たちです。

船で暮らすようになった背景には、震災や戦災で陸の上の家を失ったなどという当時の住宅事情もありますが、艀船など水上輸送に従事する人たちや、牡蠣や鰻など川魚の料理屋、あるいは貸しボート屋など、都会の川で生計を立てていた人たちが数多くいたからにほかなりません。

しかし、そうした船の住まいも戦後しばらくしてから急速に減り、東京ではオリンピック、大阪では万博の頃を境にほぼ消滅したといってよいでしょう。生活様式や社会の変化で生業が成り立たなくなったり、河川の改修や堀川の埋め立て、都市の再開発などで船を係留できる生活の場がなくなったからです。

川の家の際

水の都と称されるこのまちの川に浮かんだ一軒の家。来歴は聞きそびれてしまいましたが、現在はボートの預かり業と占いで暮らしをたてておられるようです。家には電気も引かれ、郵便ポストもあります。ボートを係留する浮き桟橋は、鉢植えの植物が並べられた庭になっています。
川の上ならではご苦労や行政からの転居要請があることは容易に察せられますが、最後の川の民として、風流を愛でながら暮らすこの家の主にエールをおくらずにはいられません。


Memo

・所在地情報非公開
・撮影:2000/03、2001/08
・旧版公開:2000/07/01、改訂版公開:2017/08/30


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