(60)春一番 風のいたずら 鮎喰川

徳島市を流れる鮎喰(あくい)川の下流、吉野川との合流点近くに架かる浜高坊橋。「こんにゃく橋」とも呼ばれている長さ200メートルほどもある流れ橋です。
訪れたときは、あいにくと橋板が落ちていて通行止でした。橋脚がずらりと並んでいる様は、なかなか壮観ではありますが、ロープでつながった橋板は筏のように川面に浮いていて、このままでは用をなしません。

河畔に菜の花が咲いていることからもおわかりいただけるように、写真を撮ったのは春です。流れ橋の橋板が流されるような大きな出水は、通常、この地方では梅雨から台風が来る秋頃までに限られています。
もしかして、前年の秋から橋板が落ちたままになっているのかなぁと不審に思いながら、橋詰に暮らす民家のかたに伺ってみると、半月ほど前、3月のなかばに春先の大風「春一番」が吹いて、その時に橋板が落ち葉のように次々と飛ばされてしまったんだと、ことの顛末を話してくれました。

この橋は、もともとこの場所にあった渡し舟の代わりに、大正時代に地区の人たちによって架けられたものだそうです。
当初の橋は手作りで架けられたため、橋板を支える杭の高さも不揃いで、橋板も簡素な一枚板が使われていたそうです。渡ると橋板が上下左右にしなって、こんにゃくのように橋全体が揺れたことから「こんにゃく橋」の名で親しまれてきました。
その後、修繕や改築を重ねて、現在のようなかなりしっかりた橋になり、市道の一部として徳島市によって管理されているそうです。が、お役所仕事の常ともうしますか、予算の関係とかいろいろ事情があるらしく、橋板が落ちてもすぐには復旧してもらえないそうです。
そんな悩みのある流れ橋は、たしかどこかにもありました。流れ橋とお役所的な管理は相性がよくないのでしょう。使う人が手早く復旧できてこそ、流れ橋の威力が発揮できるのです。

「週に何回か対岸の病院に通うのに遠回りしないといけないので、タクシー代が高くついてね」と川端に住むおばさんは苦笑しながら話してくださいました。このおばさん、若いころにはカブに乗ったままで、揺れる橋を渡ったという強者です。


Memo

・鮎喰川/徳島県
・撮影:2000/04
・旧版公開:2000/10/02、改訂版公開:2017/03/15

・その後、浜高坊橋は2007年3月に撤去されました。
・Google ストリービューでみると、今は橋脚の跡形もありません。
・橋が架かっていた箇所の北岸に記念碑が建立されています。


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