「鉄と水は、どちらが強いか?」という愚問に、水を好む智者が答えて曰く、「鉄は強靱なり。されど力を得た水は、時として鉄をも凌駕する。」
平成16年(2004年)7月、活発化した梅雨前線の影響によって、福井県北部は17日深夜から18日昼ごろにかけて大雨に見舞われました。
福井県嶺北地方を流れる足羽(あすわ)川では下流の堤防が決壊して、福井市の市街地が水浸しになりました。また中流では、福井市から美山町・大野市を経て九頭竜湖方面を結ぶJR越美北線の一乗谷駅と美山駅間に架けられていた7つの鉄橋のうち、5橋が流失するという大きな被害を被りました。
被災から1ヶ月ほど経った日に現地を訪れてみました。応急処置や後かたづけには手がつけられているものの、そこかしこに凄まじい景色が残されていました。横倒しにされたコンクリートの橋脚、いずこへと流れ去った鉄の橋桁、ねじ曲げられたレール・・・
ローカル線は地域にとって重要な交通手段でありながら、赤字路線であるがゆえに復旧の目処はすぐにはたちません。金儲けに熱心な某鉄道会社の経営陣の一部からは「チャンスだ! これを機会に廃線にしてしまえ!」という声もあがったと聞きます。
けれども、『災害を転じて幸いとすることなかれ!』という天の声が通じたのか、年が明けた平成17年2月、国や自治体の支援を得ることを条件にようやく復旧へ道筋がみえてきました。
橋の架け替えなどに要する費用はおよそ40億円と試算されています。この費用負担をめぐって鉄道事業者と関係者間に熾烈な綱引きがあったのでしょう。
自転車に乗って、昼過ぎに福井市を後にしました。あちこちの被災箇所に立ち寄りながら約20キロ上流にある美山駅にたどり着いたのは、長い夏の日が暮れかかる頃。
毎日あとかたづけに翻弄されている家なのでしょうか、壁がなくなり柱だけになった屋根の下で、裸電球ひとつの明かりに照らされて4~5人の家族が無言のまま夕餉を囲む光景が印象に残りました。
Memo
・足羽川/福井県
・撮影:2004/08、旧版公開:2005/05、改訂版公開:2017/02
越美北線は2004年7月の福井豪雨による水害で5つの鉄橋が流されるなど大きな被害を受け、越前花堂駅~越前大野駅間が不通になりました。
被災前の1日あたりの利用者は500人前後と少なく、復旧には多大な費用がかかるため路線の存続が危ぶまれました。国や県も費用を負担することで鉄道事業者のJRと合意、翌2005年から復旧工事が始り、2007年6月に全線が復旧しました。
復旧に要した費用は約40億円で、そのうち橋梁の復旧には約34億円かかったとのことです。
崩壊した第7足羽川橋梁の橋脚と橋桁でつくられたモニュメント「福井豪雨の記憶」が福井市獺ケ口町の足羽川河畔に設置されています。
押し寄せる水の持つ破壊力のすごさは、その後2011年の東日本大震災の津波の映像を目にしたすべての人が知るところとなりました。
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