京都府北部を流れる由良川のほとりにある福知山市の戸田地区。
由良川から100mほどはなれた場所で、130世帯300人ほどが暮らす昔からの農業集落です。上の画像では、集落の奥に連なる水害防備林の向こう側を由良川が流れています。
以前この地区を訪ねたとき、古い民家の壁には、どの家にも高さ2mほどのところに一本の印が残っていました。軒下の少し下のあたりで白壁が茶色く変色しています。この線は、1953(昭和28)年9月の台風13号による洪水の痕跡です。この地区の家は全戸が、軒下のこの高さまで泥水に浸かったという証拠は半世紀も残っていました。
この写真を撮った3年後の2004年にも、台風23号の雨で由良川が氾濫し、戸田地区は再び、ほぼ全戸が再び水に浸かりました。その後、国土交通省は抜本的な洪水対策として、地区の中央部に新しい堤防をつくる河川整備計画を策定しました。
新しい堤防用地の周辺に建っていた家々は、立ち退きを迫られることとなりましたが、地区の住民は計画を受け入れました。集落から200mほど離れた場所に新たに住宅地が造成され、何年かかけて新しい家を建てました。
地区の集団移転がほぼ完了し、水害の脅威はもう過去のことと思われました。
しかし、2013年9月の台風18号に伴う豪雨によって、福知山での水位は過去最高の8・30mを記録。圧倒的な量の洪水と堤防整備の遅れによって、戸田地区はみたび、水禍に見舞われることになります。
2013年9月17日の戸田地区 撮影:読売新聞社
水害の原因は今後、明らかにされるでしょう。現在のところ、下流の堤防のない箇所や堤防用地の買収が済んでいない箇所など、堤防の“隙間”から氾濫流が流入したものと推定されています。
水禍は忘れないうちにやってきました。三度も床上浸水の被害を経験することになった地区住民のご労苦はいかばかりでしょう。
長く連続した堤防をつくるためには、相当の歳月や費用が必要なことは理解できますが、お役所仕事というのは、どうしてこんなにも後手後手で、間抜けなことをしてしまうのでしょうか。
【後日談】
2013年の水害を報じた9月21日付の京都新聞のウェブサイトによれば、新しく造成された住宅地で床上浸水の被害に遭ったのは、旧地区から集団移転した約70世帯だけでなく、造成地の余った区画を購入し市内外から引っ越してきた14戸も含まれていたそうです。
報道によれば、宅地を分譲した福知山市は、堤防が未完成で水害の危険度の高い土地であることを説明していなかったとされています。危険性を伝えなかった理由は?といえば、「早く完売したかったから」だそうです。
都合の悪いことは隠し、自分たちのことを最優先に考えるという仕事ぶりは、お役人の鏡であります。宅地分譲の担当課の手腕には、もはや悪徳不動産屋も脱帽するしかありません。
Memo
- 京都府・由良川
- 撮影:2000/04
- 旧版公開:2013/09/18、改訂版公開:2017/09/01
- 戸田地区の宅地分譲地の申し込み・問い合わせは、 福知山市農林管理課 ℡ 0773-24-7042まで。
- http://www.city.fukuchiyama.kyoto.jp/shisei/entries/001402.html
- 2016年9月現在、造成地の購入者6人が原告となって、説明義務を果たさなかった福知山市に補修費などの損害賠償を求める民事訴訟が争われています。
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