長尾山第一トンネルを抜けてC11が牽く臨時旅客列車が姿を現した。
6両の客車を従えたC11は、武庫川に沿った10‰の勾配をゆっくりと、力強く登っていく。
4月になってようやくヤマザクラの咲き始めた渓谷沿いをC11が牽く臨時旅客列車がやってきた。
このあたりは、かつて桜守の笹部新太郎が福知山線を使って長尾山の桜の園「亦楽山荘」に植える苗木を運んだ場所でもある。
列車が抜けてきた長尾山第一トンネルからは、白い煙がしばらくたなびいている。 C11316【吹一】
行楽地やハイキングなどに行く旅客を降ろしたあと、機関車を大阪方に付け替え、水を補給する。
行楽客の戻ってくる午後の上り列車の出発時刻までまだ何時間もある。
それまで東端のホームで待機する。 C11316【吹一】
C11の牽く6輌の客車は宮原区の所属。 スハフ42 2152の車内には蛍光灯、扇風機、電気暖房などの改良が施されている。
乗ってきた行楽客達が千刈などに花見に出かけている間、機関車や客車も三田駅の構内で花見を楽しむ。
この年の夏に廃車となったC11にとって最後のサクラでもあった。
時は高度経済成長の真っ只中であったが、一編成の列車と乗務員を半日遊ばせておくことが許された。いまから思えば、まだゆとりのあるのどかな時代だった。