東京農工大学における研究活動上の不正行為(盗用)と調査結果の「公表」のありかた(2)

【目 次】

はじめに このページの記載内容について 

  • 事後処理の基本方針
  • 盗用したA氏への責任追及について
  • 大学当局への評価と調査結果の「公表」を巡る問題点

著作権侵害ならびに研究活動上の不正行為(盗用)認定までの概要

  • 不正行為の概要と通報などの初期対応
  • 盗用箇所と原著との「対照表」の作成
  • 東京農工大学による研究者倫理調査委員会の設置と調査結果

調査結果とその「公表」にかかる問題点

  • 研究活動上の不正行為に関する調査結果
  • 自ら定めた規程を履行しない大学当局

研究活動上の不正(盗用)としての著作権侵害行為の特質

原著公開以降、現在に至るまでの主な経緯  ◀ 現在地

原著公開以降、現時点に至るまでの主な経緯【2019/12/27現在】

1999/12/05
  • TがDionのホームページサービスを利用してウェブサイト『暮らしのある川の風景』を設け、そのコンテンツのひとつとして原著を公開した。
  • 同サイトはその後、約17年間インタネット上で公開したが、Dionのホームページサービス廃止にともない2017年11月に閉鎖した。
  • 盗用行為を受けたコンテンツは、旧サイトからこのサイトに移設して、現在も継続公開中である。
2012/02

ごろ

  • A氏の指導のもと、テーマを与えられた学部学生X(学部4年生)が原著を無断転載した卒業論文を作成し、東京農工大学に提出した。
  • 2019/03現在、卒業論文は、A氏の研究室に保管中とのこと
2012/05/02
  • A氏が原著を無断転載した報告書を作成し、助成研究の成果報告書として公益財団に提出した。
  • 左の日付は、郵送された成果報告書を財団が受理した日を記載した。
2012/06

ごろ

  • 公益財団法人がウェブサイトでA氏の成果報告書を公開した。
  • 助成研究の規程として、成果を社会還元するため、成果報告書を公開することとなっている。
2019/03/07
  • 公益財団のウェブサイトを閲覧していたTは、自分の著作物がA氏によって著作権侵害行為を受けていることを発見した。
  • 侵害行為は報告書の5ページに及んでおり、看過できない分量に及んでいたため、公開されている研究者名簿でA氏の連絡先を調べ、電話で本人に事実確認したところ、侵害行為を大筋で認めた。
  • 但し、発覚当初は著作権侵害が不法行為であるという認識は低く、研究不正を指摘された際によく見受けられるように「論文(報告書)をさげれば(撤回すれば)いいでしょう」という程度の認識だった。
2019/03/08
  • 著作権に対するA氏の認識が著しく低く、Tと話がかみ合わないことも多々あった。また、侵害箇所も多量に及ぶので、大学当局など第三者を交えて不正行為の全容を解明することとした。
  • 研究活動上の不正の疑義について、Tより電話とメールで東京農工大学の総務課に第1報を通報した。
  • 大学内の業務分掌に基づき、本事案は研究支援課を窓口として対応していただくこととなった。以後、大学とのやりとりは同課を通じて行なった。
2019/03/10
  • 著作権侵害行為の説明資料(暫定版)を作成し、Tより東京農工大学研究支援課、公益財団法人にメール添付資料として提示した。
2019/03/11
  • この頃以降、3月末にかけてTとA氏間でメールや電話で数十回にわたり質疑応答を行ない、次の事項を中心に著作権侵害行為全般について確認作業を行なった。
  • ① 著作権侵害行為が法令違反であること
  • ② 著作権法第32条、第48条などの関連条文の説明
  • ③ 著作権侵害箇所の詳細、A氏と学部学生の役割分担など
2019/03/11
  • TよりO県警察P警察署に連絡し、次の事項について相談した。
  • ① 昨年に続きインターネットを介した著作権侵害行為を受けたこと
  • ② 被害状況を説明し、捜査担当者と刑事告訴について意見を交わした
  • 【注】Tは1998年6月にも別件でインターネットを介した著作権侵害行為を受け、その被疑者が非常に悪質であったため、県警本部のサイバー犯罪担当部署に相談し、刑罰を求めて刑事告訴を行った。
2019/03/15
  • 大学が予備調査委員会を設置し、予備調査に着手した。
2019/03/18
  • Tから東京農工大学への通報を大学が正式に受理した。
  • 大学からTへの通知「研究倫理委員会による本調査の開始」を受領した。
2019/03/22
  • 「東京農工大学における研究活動上の不正行為の防止及び対応に関する規程」に基づき、大学が研究者倫理調査委員会(委員長 荻原 勲理事)を設置した。
2019/04/02
  • O県警察P警察署にTが出向き、捜査担当者に著作権侵害事案の詳細を説明し、説明資料を提示した。
  • 捜査担当者と相談し、刑事告訴に必要な資料や公訴時効等などを確認した。
  • 刑事告訴を行なうか否かは、A氏の態度や大学当局の対応状況をみながら後日、連絡することとした。
2019/04/03
  • 著作権侵害行為の事後処理について、Tは事案を次の観点から3つの側面に大別して、それぞれ別個に事後処理を進めていくこととした。
  • ① 刑事責任:著作権法違反として刑罰を求める刑事告訴の検討
  • ② 民事責任:著作権侵害行為や事後処理で生じた損害賠償などの請求
  • ③ 研究不正:研究者・教育者としての行動規範や研究倫理の追求
2019/04/04
  • 著作権侵害行為の発見直後にA氏に対し、侵害行為に関与した元学生分を含めて書面での謝罪文提出を要請していたところ、A氏から2名の謝罪文がTの手元に郵送で到着した。
  • しかし、文面の表記内容の一部に不備があり、記載された日付の元号にも不適切な記述がみられた。また、書面作成者の本人確認に必要な事項の記載にも不備が認められたため、一旦、差し戻して訂正し、再提出するよう要請した。
2019/04/08
  • 東京農工大学が、第1回研究者倫理調査委員会(委員長 荻原 勲 理事)を開催した。
2019/04/08
  • A氏より前回指摘した不備を訂正した謝罪文が到着した。
  • Tは、謝罪文の内容を確認し、A氏と学部学生両名の謝罪を受け入れた。
2019/05/08
  • 事後処理のうち、侵害行為による損害賠償請求などの民事責任にかかる事項は、可能であるならば訴訟をおこして争うことを回避し、当事者間の話し合いによって解決を図ることとした。
  • A氏が指導した学部学生による卒論作成時における著作権侵害行為については、A氏からの懇願もあってTは直接、学部生に関与せず、大学が設置した「研究者倫理委員会」による調査に委ねることとした。
  • 以上について、A氏には事後処理の経過を示した資料の書面で通知した。
2019/05/16
  • 民事責任にかかる事後処理として、著作物の不正使用による損害賠償金の算定についての考え方と試案を作成し、A氏に提示した。
  • 試案に対して、A氏から異議や異論の申し立てはなかった。
2019/05/23
  • 当事者間で示談書を取り交わし、民事責任にかかる事項の示談が成立した。
2019/05/24
  • 第2回研究者倫理調査委員会 開催(A氏からの事情聴取)
2019/06/14
  • 第3回研究者倫理調査委員会 開催(研究活動上の不正「盗用」の認定)
2019/07/08
  • 大学のウェブサイトで公開されている役員会議事概要によると、「東京農工大学 令和元度第6回役員会において、大野学長の指示により、配付資料に基づき、荻原理事から研究活動上の不正行為に関する調査結果について報告があった。」と記されている。
  • http://www.tuat.ac.jp/outline/overview/organization/h31r1_giji/yakuin/20190708.html
2019/08/01
  • 大学より大野学長名の書面で「研究活動上の不正行為に関する調査結果について(通知)」(07/29付)を受領した。
  • A氏の処分については、別途、大学の懲罰規定に基づく審査委員会を設置し、審議予定である旨の連絡を受けた。
2019/11/08
  • 8月1日に書面による通知を受けて以降、大学より処分の審議状況に関する連絡はなかった。
  • 前回の連絡以降、約3ヶ月が経過したので、大学の窓口担当者に、研究活動上の不正認定後に開催予定と聞いていた処分の審査委員会の開催経過および審議結果について照会した。
2019/11/11
  • 上記照会に対して、大学の窓口担当者より次のような返答があった。
  • ① 11月中に処分が決定する見込みである
  • ② 処分の公表は学内の懲罰規程に基づき実施される予定である
2019/11/21
  • 大学の窓口担当者より連絡があり、次の点について連絡を受けた。
  • ① 11月20日付で「戒告」の懲戒処分を行なった
  • ② 懲戒処分の公表として、処分書(所属と職位は記載、氏名は不記載)の学内掲示を行なった
  • ③ 倫理講習など再発防止策の実施予定は後日、改めて連絡する
2019/11/22
  • Tより大学へ、今回の研究活動上の不正についての事後処理として大学当局が講じた措置のうち、次の点に疑義や被害者としての意見があることを通知した。
  • ① 調査結果や処分内容に関する「公表」の方法は適正か
  • ② 研究活動上の不正のうち、「盗用」など被害者がある場合の対応のあり方は、「改ざん」「捏造」などの単独行為による不正とは別であるべきで、被害者に説明を行なうなど特段の配慮や対応が必要であること
  • ③ 今回の不正行為の内容を鑑みた場合、決定した「戒告」処分の妥当性などについて、疑義や被害者としての意見があることを通知した。
  • 以上を含めて今回の著作権侵害行為や研究活動上の不正の事後処理について、学内における責任者的な立場の方と直接(電話で)話をしたい旨、申し入れを行なった。
  • 要望が受け入れられる場合、大学側の責任者として対応いただく方の人選を依頼した。Tの希望する責任者とは、理事職相当である。
2019/11/22
  • 学側の窓口担当者より、上記で依頼した本事案の大学側責任者として「人事課長」の紹介を受けた。
  • しかし、人事が分掌の懲戒処分だけでなく、不正行為全般の疑義や意見に対応できないことが予想されたため、人事課長との接触は見送った
2019/11/25
  • 11/22の連絡事項のうち、とくに「公表」については、大学とTとの間で「公表」という概念の認識、および「公表」の方法について、著しい見解の差異が認められ、合意形成にはほど遠い状況である。
  • 大学に対して、最後通牒として本日25日15時までに、大学が講じた「公表」の方法が妥当であったか再考し、その検討結果を通知するよう求めた。
  • 設定した期限までに大学から返答がなかったことから、このままでは「公表」に関する合意形成は困難であると判断した。
2019/11/26
  • 文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 研究公正推進室へ電話し、口頭で事案の概要と、調査結果の「公表」にかかる問題点を説明した。
  • 事実確認および可能であるならば大学への指導を依頼した。
2019/12/03
  • 文部科学省 研究公正推進室に電話し、11/26に依頼した件について、確認の結果と文科省としての見解などを伺った。
  • 大学へ確認した結果は、Tの説明とおおむね相違なかった。
  • 「公表」することを定めた研究活動上の不正に関する規程は、東京農工大学が設けたものであるので、文科省から「公表」するように指導することは困難である。
  • 「公表」にかかる問題は、大学とT間で話合って解決して欲しい。
  • 文科省のサイトにおいて、研究公正推進室が研究活動の不正事案の一覧を設け公開している。その事案一覧への本件の収載は、助成金が民間(公益財団)の資金であるため、収載の対象外となる。
2019/12/03
  • 3月以降、本事案の事後処理は大学研究推進課を窓口として行ってきた。窓口担当者の対応は迅速かつ的確であり、誠実であったのでTとの間で信頼関係も構築されていた。しかし、「公表」の問題が顕在化したころより、大学上層部の某氏の指示により接触が禁じられた模様である。
  • このため、Tの判断で交渉窓口を総務課に変更し、調査結果の「公表」についての問題点を説明し、善処できないか改めて要請した。
  • 総務課の担当者は、申し入れの内容を関係部署と協議すると答えたので、協議の結果について、「No」の場合も含め連絡するよう依頼した。
2019/12/04
  • 昨日の総務課への申し入れに対して、研究推進課長より代わって返答する旨のメールを受け取った。回答内容を転記すると次のとおりである。
  • 公表の本学の意味合いとしては、 「公表の方法までは定めておらず、これまでの慣例で学内に設置している掲示板によることとしている。」とさせていただいております。これ以上の回答はいたしかねます(以下略)
  • Tは、これを大学からの公式回答として受けとめている。
2019/12/04
  • 昨日の回答により、「公表」を巡るTと東京農工大学のとの合意形成や意見調整は事実上、もの別れに終わった。
    不都合な点を曖昧にし、対話すら拒絶した大学の一方的な対応により、研究活動上の不正の事後処理は、最終段階の一歩手前で放置されたままである。
  • Tは、東京農工大学から遠く離れたO県に居住しており、大学組織対個人でもあることから、自力での問題解決は困難と判断している。
2019/12/07
  • 朝日新聞朝刊および同紙のデジタル版であるasahi.comが、7日付(全国版社会面)で東京農工大学の准教授が研究活動上の不正(盗用)を行ったと報じた。
  • 記事においてA氏の氏名は匿名扱いであり、懲戒処分を受けたこともあわせて報じられた。
2019/12/27
  • 本事案の概要、問題点、発覚以降の経緯などを整理し、本記事「東京農工大学における研究活動上の不正(盗用)と調査結果の『公表』のありかた」をTのウェブサイトで公開した。
  • 記事において、公職の人物以外は匿名表記とした。
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