東京農工大学における研究活動上の不正行為(盗用)と調査結果の「公表」のありかた

【目  次】

はじめに このページの記載内容について ◀ 現在地

  • 事後処理の基本方針
  • 盗用した准教授A氏への責任追及について
  • 大学当局への評価と調査結果の「公表」を巡る問題点

著作権侵害ならびに研究活動上の不正行為(盗用)認定までの概要

  • 不正行為の概要と通報などの初期対応
  • 盗用箇所と原著との「対照表」の作成
  • 東京農工大学による研究者倫理調査委員会の設置と調査結果

調査結果とその「公表」にかかる問題点

  • 研究活動上の不正行為に関する調査結果
  • 自ら定めた規程を履行しない大学当局

研究活動上の不正(盗用)としての著作権侵害行為の特質

原著公開以降、現在に至るまでの主な経緯(このサイトの別ページ)

はじめに このページの記載内容について

このページに記載した事項は、東京都府中市にある国立大学法人 東京農工大学の農学研究院(大学院)所属の教員(准教授)A氏によって行なわれた著作権侵害行為ならびに研究活動上の不正(盗用)について、著作者・著作権者であり、盗用の被害者・被盗用者の立場にある当方(以下、Tと表記)が、事案の概要および発生後の事後処理の経過について整理し、現時点で感じている問題点や疑義をまとめたものである。

事後処理の基本方針
本事案の事後処理は、Tの判断により、次の3つの観点からそれぞれ独立してすすめることとした。

(1)刑事責任:著作権法違反として刑罰を求める刑事告訴の検討
(2)民事責任:著作権侵害行為や事後処理で生じた損害賠償などの請求
(3)研究不正:研究者・教育者としての行動規範や研究者倫理の追求

事後処理に関するこの基本方針は、不正行為の発見後、約3週間が経過した4月初旬に、A氏ならびに大学の窓口担当者に対してメール添付の書面で通知した。

基本方針のうち、(1)刑事責任については、公訴時効の制約や刑事告訴のための準備期間が必要であるため、A氏の反省の度合いと対応、および(3)研究不正における大学当局の対応や進捗状況を見計らいながら、公訴時効前までに刑事告訴を行うか否かを決めることとした。
また、(2)民事責任については、経費と時間を要する民事訴訟など法廷での争いをできるだけ避け、当事者同士の話し合いによる示談での解決をめざすこととした。
さらに(3)研究不正については、東京農工大学が研究活動上の不正に関する規定に基づいて、調査委員会の設置を早期に決定し、委員会の立ち上げが確実となったので、調査委員会による調査に委ねることとした。

盗用した准教授A氏への責任追及について
研究活動上の不正(盗用)は、研究者として許されない悪質な行為であり、いかなる理由があろうと決して容認されるものではない。盗用したA氏は、発覚直後はことの重大さに気づいていなかったが、その後、深く反省しており、民事責任として負うべき損害賠償請求にも誠実に対応している。また、Tは誠実に対応したA氏に対して私恨を持っておらず、刑事罰を求めなかった。したがって、ここではA氏に対して盗用行為そのものの責任追求は行わない。ただし、盗用行為の背景や原因となった事項については、関係する範囲で少し言及しておく。

大学当局への評価と調査結果の「公表」を巡る問題点
研究活動上の不正の事後処理にあたった大学当局に関しては、通報を受けてのちの速やかな委員会の立ち上げや、被害者の立場にたってA氏との連絡調整を行っていただいた窓口担当課長の配慮や対応については、非常に高く評価している。

しかしながら、そのいっぽうで大学当局は、調査委員会によって研究活動上の不正が認定されたのちの事後処理の最終段階において、自ら定めた規定に明記された調査結果の「公表」を誠実に履行しないばかりか、Tの質問や再三の指摘に対しても回答や連絡を拒否するという事態に陥っている。大学当局は、「公表」というきわめて明快な語の語義をねじ曲げ、不祥事を隠蔽しようとするともとらえられる行動を平然と行っている。このようなことは決してあり得ないと思うが、もし仮に、大学の最高責任者が直接、部下にこのような行動を指示しているならば、恥ずべき行為を通り越して更迭に値する行為だと言わねばならない。

「公表」のありかたをめぐって発生した最終段階におけるこれら一連の不誠実な対応について、Tの推測では、正確に言うと大学当局というよりも、窓口担当者の上席にあたる大学事務局の幹部某氏の意向が働いていると推定される。その真偽は不明であるが、いずれにせよ、このような不誠実な対応により、3月から進めてきた事後処理は、着地点を間近にしながらも、「公表」のありかたをめぐる合意が形成できず、物別れのままで終わっている。

研究活動上の不正を扱ったS氏のサイトによると、2016年ごろに発覚した東京農工大学所属の別の研究者(教授)の研究活動上の不正(盗用)に関しても、2010年に出版された論文が撤回されただけで、これまでに詳細が公表されたことはなく、全容が明らかにされないまま処理されている例があるように見受けられる。

研究活動上の不正の根絶には、文部科学省ガイドラインや大学が自ら定めた規定にしたがって、不正行為の事実を公表することが基本である。

「まず隗より始めよ」という中国の諺がある。「公表」を原則とする研究活動上の不正の事後処理における「公表」の語義すら理解できない大学幹部には難解な言葉かもしれない。辞書を引けば載っている諺なので、この機会に「公表」とあわせて学習しておくことをお勧めする。自治と自浄機能を失った大学は、もはや大学とは言いがたい。

研究活動上の不正を巡る東京農工大学の大学当局のかかる体質について大いに疑義を感じ、ここに事実関係を整理して、世論に訴え評価を求めるべく公開する次第である。

著作権侵害ならびに研究活動上の不正(盗用)認定までの概要

不正行為の概要と通報などの初期対応

東京農工大学の農学研究院所属の准教授A氏による著作権侵害行為ならびに研究活動上の不正行為は、2012年に行なわれたとみられる。いっぽう、その不正行為が判明(発覚)したのは約7年後の2019年3月になってからである。一般に研究不正は、専門性や閉鎖性が高い故に外部から発見しにくく、発覚も遅れがちである。研究不正が発覚するまでに何年も経過しているケースも多い。研究不正のうち盗用の場合は、被盗用者の目にとまらなければ、発覚することなく埋もれてしまうケースも多いと思われる。今回のケースも、もしTの発見がなければ、准教授A氏は素知らぬ顔をして、学内や所属学会などで教育者・研究者の仮面を被って振るまっていたであろう。

ここで述べる著作権侵害行為ならびに研究活動上の不正(盗用)は、Tが自らのウェブサイトで1999年から公開していた天竜川水系遠山川の河川伝統工法に関する論考をA氏が盗用し、公益財団から受託した助成研究の成果報告書に著作者に無断で転載したというものである。
助成研究は研究費の援助を伴うものであり、大学の調査によると、助成金額は140万円であったとの報告を受けている。不正行為の発覚後、助成金の全部または一部が返金されたどうかについて、Tは把握していない。

盗用された箇所は、テキスト約4,100字、写真4点、図版1点にのぼり、盗用箇所の分量は、提出された報告書全40ページのうち、12.5%に相当する5ページを占めている。

成果報告書の盗用箇所p.22-23

成果報告書の盗用箇所 p.24-25

盗用によって作成された成果報告書(5ページ中の4ページを掲げた)
赤枠内が盗用箇所、数字は盗用されたテキストの概略文字数

盗用されたテキストは、Tが1978年から続けている長年のフィールドワークに基づくオリジナルな論考である。写真は、現地の河川を歩き、源流の源頭部にある大崩壊地に自分の足で登らないと撮影できないものである。

また、成果報告書の作成作業には、A氏だけでなく、指導していた研究室所属の学部学生(4年生)も関与していたことが判明した。結果的には、助成事業者であるA氏が、指導していた学部学生の卒業論文を助成研究の成果報告書に流用したものとみられる。

いっぽう公益財団に提出された助成事業の成果報告書は、公益財団の規程に則って、公益財団のウェブサイト上に公開されることとなっている。研究成果のインターネットでの公開は、助成研究の社会還元を図るためであろう。今回のケースでも、Tがインターネットを閲覧中に、2012年5月に提出された成果報告書の文章が偶然目にとまり、不正行為発見の端緒となった。

A4判の報告書で5ページにも及ぶかなりの分量の著作権侵害行為を知ったTは、まず、公開されていたサイトの画面やPDFファイルなどの証拠を保全した。そののち、A氏本人に対して電話とメールで連絡を取り、著作権を侵害した不法行為である旨通知した。これとあわせて、所属する大学にも研究活動上の不正の疑いが濃厚であると通報した。

盗用箇所と原著との「対照表」の作成

A氏は当初、「無断転載」を「引用」だと主張した。しかし、著作権法第32条で定められた引用の要件をまったく満たしていないこと、同法第48条で規定された出所の明示がまったくなされていないことなどを指摘すると、次第に著作権を侵害した無断転載であることを認めた。証拠と法を目の前に突きつけられると、強弁は簡単に崩れてしまった。

不正を発見したTは、調査や研究を生業とする民間の人間である。業務として受託していた調査研究の報告書とりまとめ作業を一時中断し、A氏や大学との連絡調整、盗用箇所の詳細を精査した対照表などの資料作成、弁護士や捜査機関との連絡・相談および資料作成などに忙殺されることとなった。休日や睡眠時間は、本事案の事後処理のために費やすはめになった。処理に要した時間や費用はすべて持ち出しであり、いわゆる給与所得者ではないので、事後処理のために本業が滞った分、収入にも大きな影響を受けることとなった。

盗用箇所の対照表

原著と盗用行為でつくられた報告書の対照表(報告書p.22分)

上に掲げた画像は、不正行為を発見して3日後にTが作成した対照表の一部である。
A3判の左側には、盗用行為でつくられた報告書を1ページ分ずつ掲げ、右側には盗用された原著の記述を比較対照できるように配置している。手元には同様の対照表があわせて5ぺージ分ある。
今回の事案では、原著を数ページ分一括して丸ごと複製したのではなく、原著の各章から数十字ないし数百字単位でつまみ食いされ、盗用文として文章が編集・加工されていた。複雑な盗用行為を大学当局や捜査機関などの第三者に説明するには、こうした対照表の作成は必須である。表中の色分けは、盗用箇所と原著の記載されている箇所を原著の章別に凡例色を設けて表示したものである。

対照表 p.24分

原著と盗用行為でつくられた報告書の対照表(報告書p.24分)

こちらは、成果報告書p.24分の対照表である。上のp.22と異なる点は、1ページのほとんどが原著の同じ章からそっくり盗用されている点である。ほぼ単純にコピペしたこのような盗用は「逐語盗用」と呼ばれている。いっぽう、上に掲げたp.22のように編集・加工が施されて、盗用元の文章をわかりにくくしてある盗用は「加工盗用」と呼んで区別している。

著作者・被盗用者の立場からすれば、どちらも許しがたい行為であるが、とくに「加工盗用」は、苦労して作成した文章が、もとの文脈を無視して無残に切り刻まれていることが多く、よりいっそうの悪質性を感じる。形容詞を用いて表現するならば「はらわたが煮えくりかえるぐらいの」という言葉が適当である。
また、「加工盗用」については、著作権法の観点からみれば、同一性の保持が侵害された著作者人格権の侵害行為でもある。

同様の対照表は、大学が設置した調査委員会においても判定ソフトを用いて作成されたとの報告を受けている。コンピュータによる機械的な判定であるので客観性は保たれるであろう。ただし、原著の文章や用語については著作者が一番よく知っているので、はなはだ手間を要する作業ではあるが、これを作っておけば、言い逃れやごまかしは一切きかない。したがって、被害者・被盗用者が自分で対照表を作ることは非常に重要であるとTは考えている。

このような対照表をつくっておけば、盗用箇所は一目瞭然であり、盗用者に言い逃れをする余地を与えない。
また、盗用者によって編集・加工の手が加えられた「加工盗用」のケースでは、被盗用者自身で盗用文を解析することになるので、盗用者の犯行時の思考回路や盗用行為の軌跡がある程度把握できる。犯行時の思考回路とは、他人の著作物をいかにして自分のモノに見せかけようと偽装したかであり、盗用者の悪質性を見極める判断材料にもなる。

つまり、盗用者はどのように考えながら盗用行為を行ったか、その犯罪心理とも言うべきものを把握できることは、盗用者の責任を追及したり、盗用行為の事後処理をすすめるうえにおいて、きわめて有効である。

東京農工大学による研究者倫理調査委員会の設置と調査結果

いっぽう、通報を受けた東京農工大学では、学長の厳命により速やかに調査に着手する旨の指示がなされたと報告を受けている。3月8日の通報から、窓口担当課と担当者の設定、予備調査委員会の開催、調査委員会の設置に至る初期対応は、年度末や年度初めの繁忙期であったにもかかわらず、きわめて迅速かつ的確であった。また、大学側における事後対応の進捗状況も、窓口担当課長からのメールで逐一連絡を受けた。仮に、大学の初期対応に点数を付けるとすれば、ほぼ百点満点である。

東京農工大学は、同大学が定めた研究活動上の不正に関する規程(下段のリンク先を参照)に基づき、予備調査委員会での検討を経て、2019年3月22日に内部委員3名、弁護士を含む外部委員3名、計6名の委員によって構成される「研究者倫理調査委員会」(委員長:荻原 勲学術・研究担当理事、副学長)を設置した。なお、外部委員の弁護士は、理学博士および法務博士号をもつ研究者でもある。

同委員会は、2019年4月8日、5月24日、6月14日に計3回に渡って開催され、調査が行なわれた。
この間、第2回委員会において、著作権を侵害したA氏への事情聴取が行われた。いっぽう、著作権を侵害されたTの意見陳述の機会は設けられなかった。
調査の結果、A氏による著作権侵害行為は、研究活動上の不正の「盗用」と認定された。

「東京農工大学における研究活動上の不正行為の防止及び対応に関する規程」
http://web.tuat.ac.jp/~kitei/act/frame/frame110000700.htm

調査結果については、A氏に一定の異議申し立ての期間が与えられたのち、大学の役員会で報告された模様である。大学のウェブサイトで公開されている役員会議事概要によると、7月8日に開催された「東京農工大学 令和元度第6回役員会において、大野学長の指示により、配付資料に基づき、荻原理事から研究活動上の不正行為に関する調査結果について報告があった。」と記されている。【※この記述は後日改変されており、詳細は下記の追記参照のこと

東京農工大学 令和元度第6回役員会 議事概要
http://www.tuat.ac.jp/outline/overview/organization/h31r1_giji/yakuin/20190708.html


【追記:2020/04/02 】
本日、リンク先の状況を確認したところ、上に掲げた第6回役員会議事概要のページが改訂されていた。
2019年12月時点では、上に「    」書きで示したとおり、誰の指示により、誰がなにをしたということについて、議事内容がきちんと具体的に記載されていた。

しかし、今回、確認したところ、その議事内容に関する記述が大幅に簡略化され、単に「報告があった」と改変されていた。また、出席役員の氏名・役職、陪席者の職名なども削除されていた。
事実を隠蔽する行為のようにも思えるが、具体的な事項が削除された理由や意図は不明である。

調査結果とその「公表」にかかる問題点

研究活動上の不正行為に関する調査結果

Tが東京農工大学から調査結果についての正式な通知書を受け取ったのは8月1日のことで、2019年7月29日付の公印の押された大野弘幸学長名の書面においてである。

書面は「研究活動上の不正行為に関する調査結果について(通知)」と題され、調査結果について研究活動上の不正があったこと、謝罪および再発防止策の強化に努めることが記されてあった。
調査結果については、文部科学省が定めた「研究活動の不正行為への対応のガイドライン」や東京農工大学の研究活動上の不正に関する規定に則り、A4判4ページに渡って次の項目について子細に書かれてあった。


●経緯及び概要

●調査体制

●調査内容

1)調査期間
2)調査対象
3)調査方法
4)調査委員会開催日時

●調査の結果

1)認定した不正行為の種別
2)不正行為にかかる研究者
3)不正行為が行われた経費・研究課題
4)不正行為の具体的内容
5)調査を踏まえた機関としての結論と判断理由

●不正行為の発生要因と再発防止策

1)発生要因
2)再発防止策


そのすべての内容をここに転記することは割愛するが、本事案の調査結果を不正行為の再発防止に活かすことは公益性があると判断される。かかる観点から、調査委員会がまとめた「調査の結果」と「不正行為の発生要因」に関する一部項目を抜粋し、要点を整理して以下に示す。


■東京農工大学が設置した調査委員会による調査結果の概要(一部項目のみ抜粋)
●調査の結果
1)認定した不正行為の種別
 盗用

2)不正行為にかかる研究者
 (Tによる省略)

3)不正行為が行われた経費・研究課題
 (Tによる省略)

4)不正行為の具体的内容
 A氏は助成研究に採択された事業の遂行にあたり、研究室所属の学部4年生Xに本事に関連する卒業論文のテーマを与え、文献調査の方法で行うよう指示をした。
 学部学生Xは、Tが作成しウェブサイトで公開していた調査・研究成果の文章と写真をTの許諾を得ず、無断転載し卒業論文としていた。
 A氏は、Xの作成した卒論の内容と引用元の妥当性を吟味することなく、文章と写真をTの許諾を得ず、さらに、引用文献に記載することさえしないまま、助成事業報告書に転載した。

5)調査を踏まえた機関としての結論と判断理由
 A氏の作成した報告書、および報告書を構成しているXの卒業論文、Tが公開しているウェブページを精査するとともに、A氏から事情聴取を行った。
 報告書約40ページのうち、p.21からp.25の5ページに渡る約4,000の文章と写真5点について著作権侵害を認め、A氏もそれを認めたため、盗用にあたる重大な不正行為と認定した。

●不正行為の発生要因と再発防止策
1)発生要因 
 東京農工大学では、平成18年4月に「研究上の不正に関する取扱い要項」を定め、教職員に倫理教育や研修を行ってきた。
 しかし、A氏自身の倫理観が欠如していたうえ、学部学生Xに対し研究倫理と卒業論文の教育指導をせず、研究者・教育者としての義務を怠ったことが要因といえる。


TがA氏から直接聞いた説明によると、不正に加担した研究室所属の学部学生Xは、3年次に他大学から東京農工大学に編入してきたという。学部学生Xが2年次まで在籍した他大学を含め、学生として身につけるべき論文作成の作法や研究倫理について、きちんと学ぶ機会があったのかどうかは不明である。

調査委員会によって指摘された発生要因のうち、研究室所属の学部学生が関与した背景に関する部分の究明と記述にやや不十分な点が感じられるものの、全体としておおむね満足できるものであった。

なお、本事案の調査結果については、次項に記したように東京農工大学の研究活動上の不正に関する規定で公表することとなっており、大学当局も「公表」したと主張している。
したがって、本稿で割愛したり省略したりした項目などについては、東京農工大学に問い合わせれば、既に「公表」されている事項なので、特段の事情がないかぎり回答を得られるはずである。

東京農工大学 問い合わせ窓口一覧 https://www.tuat.ac.jp/contact/

自ら定めた規程を履行しない大学当局

ところで、同大学の定めた研究活動上の不正に関する規程によると、第30条において研究活動上の不正と認定された場合、調査結果を速やかに公表することが定められている。また、第30条2項において、公表すべき項目として、氏名・不正行為の内容・大学が講じた措置・調査委の構成など細目が明記されている。

「東京農工大学における研究活動上の不正行為の防止及び対応に関する規程」のなかから、本件に関係する第30条、ならびに第30条2項を抜粋し、以下に転記する。


東京農工大学における研究活動上の不正行為の防止及び対応に関する規程(抜粋)
第30条 最高管理責任者は、研究活動上の不正行為が行われたとの認定がなされた場合には、速やかに、調査結果を公表するものとする。

2 前項の公表における公表内容は、研究活動上の不正行為に関与した者の氏名・所属、研究活動上の不正行為の内容、本学が公表時までに行った措置の内容、調査委員会委員の氏名・所属、調査の方法・手順等を含むものとする。

http://web.tuat.ac.jp/~kitei/act/frame/frame110000700.htm


しかしながら、2019年11月に入っても、社会通念や常識でいうところの「公表」、すなわち、「ひろく世間に発表すること」「おおやけにすること」は履行されなかった。
昨今、研究活動上の不正と認定された事案に関する他大学の対応として、細目は異なるものの、大学の公式ウェブサイトにおいて内容が公表される。また、社会的に影響を及ぼす重大な事案については、プレス発表や研究・教育部門の責任者による記者会見が行なわれている。
指導的立場にある文部科学省においても、平成27年4月以降、各大学等から報告を受けた特定不正行為について、同省のウェブサイトで公開している。同サイトで発生誘因や再発防止策をも公開している姿勢は、大いに評価できる。

Tは、公式ウェブサイトを設け、所属する教員らによる研究成果や受賞などを華々しく掲載している東京農工大学が、本事案の調査結果について、他大学のようにウェブでの公表を履行しないことに疑義を感じた。

東京農工大学の公式サイト

受賞や研究成果を公開している東京農工大学の公式サイト
https://www.tuat.ac.jp/ 【2019/12/27閲覧】
150周年記念事業、研究成果、受賞などの公開にはきわめて積極的である
いっぽう、研究活動上の不正など不祥事には検閲が入るのか?して公開されない

そこで大学の窓口担当者に対して、調査結果を公式ウェブで公表しないことについてメールで照会した。しかし、それに対する正式な回答は得られず、重ねて電話で問い合わせて、ようやく、認定後に「学内で調査結果の文書を掲示し、それをもって公表したとする」旨の驚くべき返答を得た。問い合わせた相手は、事案発覚以降、さまざまな事後処理のシーンで対応し、信頼関係を築いてきた誠実な窓口担当課長である。対応がこれまでと急変した原因は、もしかしたら上司にメールをチェックされ、業務命令を受けていたのかもしれない?

掲示されたという場所や掲示板の設置環境についても不明な点が多い。どのような場所なのか、掲示板をスマホやデジタルカメラなどで撮影した画像を提示するように求めたが、画像の提供を含めて返答はなく、なしのつぶてであった。

研究活動上の不正に関する規程には「調査結果を速やかに公表する」と明記されている。ただし、同規定では公表の具体的な方法については記載されていない。それはある意味、当然のことである。同規定では、「公表」と同様に、例えば「研究者」だとか「通知」「報告」といった、基本的かつ常識的な日本語の語義やその解釈については書かれていない。「公表」は、誰にでもわかる明快な言葉であるし、複数の辞書を引けばどの辞書にも同じような解釈しか書かれていない。基本的かつ常識的な日本語の語彙には、具体的な方法といった詳細な補足は不要だからである。

「公表」とは、文字通り、ひろく世間に対して発表することである。「学内掲示すること」と書かれた辞書があるなら100回繰り返して読みたいので、100冊まとめて買ってもいいだろう。

本来ならば説明の不要な「公表」の解釈をめぐって、東京農工大学の担当者とTとの間で数度に渡り意見交換をおこなったが、合意形成には至らなかった。

国立大学法人でもある東京農工大学は、一般人の目に触れることのきわめて少ない学内において、人影の少なくなった夏期休暇の直前もしくは休暇期間中と思われる7月末から8月初旬前後の時期に、調査結果を記した文書を学内掲示したことをもって公表したと主張している。荒唐無稽とはこのことであろう。
(注:東京農工大学の2019年度学年曆によると、1学期の授業期間は4月9日~7月26日で、7月29日~8月2日は補講等を行うための調整期間、8月3日以降は夏期休業となっている)

規定に示された「公表」という語の定義を明らかにするよう、対応窓口を学内規定の取扱いなど一般事務を主管する総務課へ変更したことを含め、再三に渡って要請した。その結果、12月4日になって、事案発生の初期から対応窓口となっていただいた課長より総務課に代わって返答する旨のメールを受け取った。
回答内容を転記すると次のとおりである。

公表の本学の意味合いとしては、
「公表の方法までは定めておらず、これまでの慣例で学内に設置している掲示板によることとしている。」とさせていただいております。
これ以上の回答はいたしかねます(以下略)

Tは、これを大学からの公式回答として受けとめている。

大学側の一方的な対話の拒絶により、3月から厖大な時間を手間を掛けてきた事後処理の最終段階における着地点がなくなってしまった。「公表」を巡るTと東京農工大学のとの合意形成や意見調整は、事実上、もの別れに終わった。

不都合な点を曖昧にし、対話すら拒絶した大学の一方的な対応により、研究活動上の不正の事後処理は、最終段階の一歩手前で放置されたままである。
Tは、東京農工大学から1,000㎞以上離れた地方県に居住しており、大学組織対個人でもあることから、自力でのこれ以上の問題解決は困難と判断している。

東京農工大学のこのような対応について、Tは強い疑義を感じている。そこで、把握している事実関係を整理して、研究活動上の不正の公表のありかたと今回の事案にかかる固有の問題点を世に問うための基礎資料として本資料を取りまとめたものである。

今回の事案において、東京農工大学の学部学生は卒論作成で不法行為を行い、研究者は学部学生への指導を怠るとともに、助成研究での盗用行為によって研究者倫理をないがしろにした。
さらに、東京農工大学当局は、再三の指摘にもかかわらず、自らが定めた研究活動上の不正にかかる規程を履行しないという事態に陥っている。
うがった見方をするならば、国立大学法人 東京農工大学は三重の過ちを犯したまま、不正行為を隠蔽し、武蔵野の雑木林の草むらへと葬りさろうとしていることになる。

情報を出さず、詭弁を重ねて、不祥事の隠蔽を図ろうとする一連の行為は、傾きつつあるどこかの国の政権と酷似してはいないだろうか?

不正行為の抑止や不正行為が発覚した場合の今後の対応に活かすことを目的として、東京農工大学当局に対して、自らが定めた規程を遵守し、広く社会に対して調査結果を速やかに「公表」することを強く要望する。150年もの歴史と伝統のある大学の名に恥じない措置を講ずることを期待したい。

研究活動上の不正(盗用)としての著作権侵害行為の特質

この事案は、他の『金のタマゴ』泥棒と同様に、著作物を盗用した著作権の侵害行為であるが、盗用者が国立大学の常勤教員(准教授)であり、助成研究の成果報告書(研究成果をまとめた論文)での不正行為であったことから、著作権法に違反した一般的な著作権侵害行為だけでなく、「研究活動上の不正」としての側面を持つこととなった。

「研究活動上の不正」とは、アカデミアの世界において、研究者として決して犯していけない倫理や規範に背いた不正行為のことである。もともとは、アカデミア、すなわち大学などの教育研究機関や研究組織における共同体の掟を破ったという行為である。本来は、アカデミアの世界だけで通用し、明文化されていなくとも守られてきた倫理的な概念であろう。なぜなら、欧米のアカデミアの世界では、この掟に背いた研究者は一発アウトで、共同体から即刻退場しなければならないほど重大なの背信行為として認識されているからである。

いっぽう、ざっと調べた範囲では、日本での研究活動上の不正への認識や認知は、世間においても研究者の世界においても、欧米に比べるとかなりルーズで、大きな遅れをとってきたと言われている。しかし、2014年に発生した理化学研究所におけるSTAP細胞の研究疑惑を契機として、研究活動上の不正が広く世間の注目を集めることとなり、最近ではデータの捏造や改ざん、論文などの盗用といった大きな研究活動上の不正が発覚するたびに、ニュースとして大きく取りあげられることも多い。

調査委員会による調査が行われた結果、研究活動上の不正として著作権侵害行為が行われたことが認められた場合、数種に区分される研究活動上の不正のうち、「盗用(plagiarism)」として不正が認定される。
文部科学省のガイドラインによれば、他の不正行為として、「捏造」「改ざん」がある。

研究活動上の不正における「盗用」は、文部科学省による定義として「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること。」とされている。
研究活動上の不正の「盗用」が、一般的な著作権侵害行為による盗用(無断転載)と異なる特徴として、大きくは次のような点がある。

(1)著作権法によって保護される対象が「著作物」に限定されるのに対して、研究活動上の不正では、不正行為の対象が拡大して解釈される。具体的には、著作権法での「著作物」には含まれていない他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、用語なども不正行為の対象に含まれでいる。
したがって、これらの対象物や、研究結果や論文などから当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すると不正行為とみなされる。

(2)よく調べていないが、研究活動上の不正だけを取り扱った法律は、たぶん、ないと思われる。例えば、研究活動で不正で捏造や改竄を行ったとしても、その行為は、ただちに法令に違反する犯罪行為とはならないのであろう。
ただし、盗用行為に関しては、この事案のように著作権法に抵触するため、刑事責任および民事責任を問われるケースがある。

また、研究活動上の不正に関する法令に代わるものとして、文部科学省ではガイドラインを定めており、大学などの各研究機関でも文部省ガイドラインを準用した研究活動上の不正に関する規程を設けている。ただし、せっかくつくったガイドラインや学内規定がきちんと守られているかは???である。また、今回の事案で明らかになったように、抜け道だらけの形骸化した学内規定も存在しているようである。

上記(2)と関連する事項として、不正行為を行った研究者に著作権法の基礎知識や遵法意識が欠落していた場合、著作権法で保護されている著作権を侵害したこと、つまり不法行為を行ったということを理解できていないことになってしまう。

その場合、被害者や被盗用者から著作権侵害や研究活動上の不正を指摘されたときの一般的な初期対応として、「不正を行った論文を撤回すればよい」ということで済まそうとしてしまう風潮があるように感じている。捏造や改ざんならば、はなはだ高慢ではあるが、それで通るかもしれない。しかし、被害者が存在する盗用の場合は、「論文を撤回すれば済む」というものではない。

今回の事案では、盗用行為を行ったA氏に対して、被害者であるTが懇切丁寧に著作権法の関連条文を説明するまで、自分の犯した行為の法的な重みを理解していなかったと感じた。

研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/houkoku/06082316.htm

研究活動の不正行為等の定義(文部科学省による)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/houkoku/attach/1334660.htm

原著公開以降、現在に至るまでの主な経緯

この事案の著作権侵害行為を発見してから、講じた措置、A氏や東京農工大学の対応などについて時系列にしたがって概要を整理した。

主な経緯はコチラにあります。(サイト内の別ページ)


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