■ 川の風景の変貌
川の風景は、その川の流れる地域に住む人々に先祖から託された財産である。
いっぽう、川は歳月の経過とともに、その姿を変えていく。その背景には、人為的な要因もあれば、自然という川の営力による変化もある。平坦地が限られたわが国では、川の氾濫によって形成された沖積平野に都市が立地し、多くの人々は川と隣り合わせで暮らしを立てていかねばならない。そのため、堤防などを築いて洪水から住まいを守るといった手立ては不可欠であり、古くから川普請や河川工事が行われてきた。
今日では河川工事が近代化され、あまりにも短期間のうちに川の姿が変わってしまう。しかも工事の多くは標準化されているので、工事後はどこでも同じような姿をした「団地のような川」になってしまう。
そのため工事の終わった地区では「昔のほうがよかった」という言葉がよく交わされる。そこには、「慣れ親しんだ川の面影がなくなってしまった」という思いだけでなく、人工化され画一化されて個性を失ってしまった川に対する違和感や不満が込められていることが多い。
河川工事を行う場合だけでなく、橋をかけたり川沿いに建物を建てたりする場合もおなじである。また、河畔の木を切る、水辺に看板を立てるといったような川の風景に何らかの影響をあたえる行為を行なう際には、風土と地域の人々が育んできた川の姿について考えることが大切であろう。
■ 記録に残された川の風景
神奈川用水に架かる木橋と河畔の風景(明治初期)
大日本帝国陸軍作成 明治前期測量 2万分の1仏蘭西式彩色地図の挿絵
その川の昔のようすを知るにはいくつかの方法がある。たとえば、古い時代に撮影された写真などを捜せば、かつてそこにあった風景を具体的に理解することができる。写真が手に入らない場合やもっと時代をさかのぼりたいときは、絵巻物や絵画、和歌、古文書、地図などに、昔日の川の姿を求められよう。そこには、さまざまな川の情景が描かれたり、取り上げられており、個性と情趣に富んでいた川の姿を伺い知ることができる。
なかでも、精緻に描写された絵画は貴重な資料である。歳月の経過の中で何が変わり、何が失われたのか。あるいは、これからも川と折り合いをつけて暮らしていくためには、何を継承し川とどのような関係をつくりだしていけばよいのか、ということを求める手だてとしても活用できるからである。