蔵屋敷が並ぶ川 佐用川(2)

■ 平福の川辺

 旧街道から路地を抜けて裏手に回ると、川に面してさまざまな形をした土蔵や納屋が並んでいる。多くの建物に共通しているのは、護岸を兼ねる背丈ほどの高さの石垣を土台にして建てられていることである。石垣のところどころには、川岸へ通じる出入り口や石段が設けられている。たぶん家の土間から建物の床下を通って川へ抜けられる構造になっているようだ。

昔、川の水がきれいだった頃は、飲料水や生活用水を得る場として、この川岸が使われたのであろう。あるいは、佐用川流域の近郷の村々から集まってきた農作物を出荷する前に、川で洗ったりするのにも使われたのかもしれない。

この付近は堰で流れが堰き止められているのだが、佐用川は水深の浅い小さな川なので、大きな高瀬舟が下流からこの平福のまちまで就航したという記録は残っていないようだ。しかし、小さな川舟なら浮かべることができるので、一旦、蔵に保管した農産物などをこの出入口から小舟に積み込んで、高瀬舟が通った下流の久崎まで運んだ可能性もなくはない。

地元でも、この川辺の風景を大切にしているらしく、近年、白壁が塗り替えられた蔵屋敷が美しい。落ちついたたたずまいを川面に映すその姿は、絵になる風景である。ただ、観光地の絵葉書のように整い過ぎていて、この川が暮らしに使われていたのは、遠い過去の話であることを無言のうちに語っているようにも思える。

■ 暮らしに使われる川辺

 佐用川に沿って上流に向かう。宿場町のはずれのほうに歩いて行くと蔵屋敷の数も減り、ごく普通の家が軒を連ねるようになる。岸辺には、日常生活で使う道具や物干しなどが置かれているので、蔵屋敷が並ぶあたりのような端正で優美なたたずまいではないが、川のほとりで暮らす人々の素顔のような景色が見受けられる。

川に面した一軒の家から、おばさんが大きなバケツを持って出てきて、なにやら洗いものをはじめた。蛇口をひねれば水がでる今の時代、わざわざ川で洗濯をする人はあまり見かけないが、この川はちょっとした洗いものをする場として役立っているのであろう。
川に通じる出入口の傍らには、冬に備えて薪が積み上げ ている。毎日の暮らしのなかで川が裏庭のように使われている様子を伺うことができる。

川辺で生活する人々の家は、絵葉書や絵にかかれた景色のように整然としていないけれども、ここ平福には、暮らしに溶け込んだ川の風景もまだ健在のようである。

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