■川の文化としての「お水神さま」
子どもは、いろんな遊びをはじめ、さまざまな行為を自ら体験し、時には失敗を重ねながら、いろんな知識を学び、知恵や社会性を身につけていくといわれている。
「お水神さま」の行事に正式に参加できるのは、小学校2年から中学2年までの地区の男児である。したがって、高島地区に生まれた男の子は、「大将」を務める最後の年を含め都合7回にわたって、この行事を体験することになる。
小学生になったばかりの小さな子どもから中学生までが、年齢差を越えて行動を共にする。このことは、地域社会という共同体の構成員としての意識を子どもなりに受け留める役割も果たしていると思われる。しかも7年という歳月は、教わる立場から小さな子どもを指導し、彼らの失敗をフォローする大将へと成長していく過程でもある。
素朴な民間信仰の行事として連綿と継承されてきたなかには、別の意味深い側面も指摘できる。子ども相撲や一連の準備作業を通じて、子どもはそれと知らずに科学的な川の見方や捉えかたを学ぶ。川からの恵みに感謝する心と同時に、川に潜む危険要素を認識し、自ずから自然と接するうえでの作法を身につけていく手立てが内包された行事でもあった。
「お水神さま」という行事は、準備段階から参加することによって、川という自然との付き合いかたや社会生活のきまりを、子ども同士で教えたり、教わったりしながら、自ずと身につけることができる水辺の学校であった。そこには「大人から子どもに伝えておきたいこと」「川という生きものに接するうえでの心構え」など、先祖からの教えや知恵が託されてもいた。川を見る目を養い、川辺に暮らすための知恵と作法を伝承していくために、地区の先人たちから受け継いだ貴重な川の文化のひとつが「お水神さま」である。
現在、「お水神さま」は、さまざまな理由から大人が手伝うかたちで開催されている。できうるならば、子どもたちが準備するという昔からの形態に戻し、絶えることなく継承されていくことを願うものである。
■ Special Thanks
本稿を取りまとめるにあたり、聴き取りや写真撮影などでお世話になった北野町(現久留米市)高島地区のみなさまにお礼申し上げます。
■ 参考文献
- 飯田道夫:『河童考』pp.77-79、人文書院、1993
- 和田 寛:「河童列島の四季」、河童連邦共和国監修『日本のかっぱ』
pp.126-127、桐原書店、1991 - 井口昌平:『川を見る』pp.42-91、東京大学出版会、1979
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