■老練の櫓さばき
櫓継ぎ式には、テレビ局や新聞社が何社も取材に来ていた。
式が終わってインダビューに応じる江山さん。「これまで事故がなかったのが嬉しい。自分でもよくやったな」と長かった渡し守の日々をふりかえっていた。
満員のお客を乗せて浜崎を離れる
鶴江への戻りの舟には、式に列席した常連のご婦人がたや後任の船頭さんに加えて、最後の櫓さばきを間近で捉えようとテレビカメラを肩にしたカメラマンが3人ほど乗り込んだ。舟が満員になるのは何年かぶりのことであろう。
船頭さんの巧みな櫓さばきは、重くなった舟をものともぜすコブシの花が咲く対岸の船着場へとすすんでいく。
満員のお客をのせて鶴江に向かう戻り舟
■勤めを終えて
常連さんたちは鶴江で舟から降りたが、船頭さんにはもうひと仕事残っていた。取材で同乗したカメラマンたちは浜崎に戻らなければならい。対岸から歩いて戻るとなると30分近くかかる。橋があるのはずっと上流側で、かなり遠回りしなければならないからである。
取材を終えたカメラマンたちが浜崎の渡し場で降りて、空になった舟を鶴江に回送するのが江山さんの最後の勤めとなった。雨のそぼ降る松本川の川面に弓なりの長い航跡を残しながら、舟はゆっくりと帰っていった。
江山さん、長い間ごくろうさまでした。
鶴江の渡しは現在も健在である。
2003年4月には新しい木造の舟がつくられた。いまは江山さんから数えて4~5代目の船頭さんが櫓を受け継いでいる。